田村俊子の作品を味読する
田村俊子という作家さんをご存知でしょうか。明治の末期から昭和の初期に活躍された方で、「元始女性は太陽であった」でおなじみの青鞜にも投稿されている方です。
1.理想的な結婚観
当時流行した新しい女の代表的な人で、瀬戸内晴美(寂聴)さんも作品の題材にもされています。
「恋むすめ」と題されたこの短編集は、序文にあります通り大正3年に上梓されておりまして、家父長制まっただの時代に自由恋愛をほがらかに歌い上げております。
おそらく当時の女学生あたりの人からすれば、恋愛の教科書的な存在だったんじゃないかなと推測します。
私を可愛がってくれる方ではなく、私の心を可愛がってくれる方と結ばれたい、この結婚観大好きなんです!
人を愛するとは、実はその人のエゴなんです。自己愛の裏返しですから、場合によってはその人の付属品になってしますわけです。
心と心が会話できる関係、お互いがお互いを大事にし合う関係、理想的ですよね。
2.恋愛の実際
とはいいつつも、彼女の作品には恋愛の裏側を覗いたようなドロドロとした作品も見受けられます。
この作品は、男性と一夜をともにした女性の物語なんですが、男女の機微を如実に表現していて大好きな作品のひとつです。
おそらくは、主人公の女性にとっては初めての体験だったのでしょう。自分のカラダが細胞レベルで汚されてしまったと思い、「いやだ。いやだ。いやだ。」とつぶやき、相手を殺したいくらい憎むのです。
腹いせに金魚に嫌がらせするくらい憎い相手なのですが、「兩手も兩足もきつい鐵輪をはめられたやうに、少しも身體が自由にならな」らないくらい男性と離れられないのです。
よく女の恋はベッドインしてから始まる、なんて言いますが、その後の女性心理が気持ちいいくらい描写されてますよね。
逆に男の恋はベッドインまで、なんて言い方もしますが、この作品でも男性の態度のなんと冷ややかなことか。事の終わったあとの冷淡さと言ったら!よくいますよね、そんな男性!
う〜ん、言い得て妙なり。名作です。
3.女性の生き方とは
こんな感じで簡単にご紹介しましたが、いかがだったでしょうか。私が初めて田村俊子に出会ったのは、学生の頃でした。「青鞜」に代表される日本における初期のフェミニズム運動に関心を持ったことが端緒です。
良妻賢母型女性像が常識だった時代に、いわゆる「新しい女」を提示し、女性を主体とした自由恋愛などを社会に対して訴求したみたいですが、保守的な人たちから見たら「ふしだらな女」とか「多淫多情」だとか散々な評価だったみたいです。
それでもなお、戦後に生まれた世代としては、時代の先駆者として敬愛する対象になりえますよね。
女として生まれた宿命にどう立ち向かい、どう生きて行くのか?
田村俊子という人は、令和を生きる私たちにも十分に問題提起してくれる作家さんです。
恐らく現代語訳は出回ってないので、旧字旧仮名遣いの文章になると思いますが、口語体なのでそこまで難しくもないと思います。ご興味を持たれた方はぜひお読みくださいませ。オススメの作家さんです。