現実の世界に横たわるのは揺るぎない事実だけ、それでも私たちは未来へ【「青春ブロッサム」感想】
「青春ブロッサム」完走しました。
Abemaで独占配信中のこのドラマ。
30分×16話構成。
6年前に自殺した大切な人、ハミンへの後悔を抱えたまま生きる主人公ソマンとハミンの弟ジェミン。
ソマンが自身の出身高校で、現在ジェミンが通う高校に教育実習生として学校に訪れる。
そのことで、過去の出来事が思わぬ形で現在の高校生たちにも影響を及ぼしていく…
ソマンは使われていない美術室で絵を描いていたところ、クラスの人気者、ハミンの知られざる一面を目撃する。
ハミンの黒い一面を知ったソマン、知られたハミンはお互いに心を開きはじめる。
ハミンにとって、心を閉ざして良い人でいること、良い息子でいること、がある意味自分の心を守る手段だったのかもしれない。
だから、ソマンに出会って「雨の日の楽しさ」や、「絵を描く楽しさ」を知ってしまって、自分の「好きなもの」を見つけてしまったことがハミンをより生き辛くしてしまったのかも。
すごく悲しいけれど。
ソマンの通うアトリエに母親に内緒で通い始めたハミン。
絵を描きながら2人の距離も縮まっていく。
それと同時に親子の溝は深まっていって。
アトリエに通っていたことが母親にバレたハミンは、やっと見つけた好きなものを奪われてしまう。
その上、美術室で2人でハミンが悲しみからソマンを抱きしめたところを同級生に目撃されてしまう。
でも、ハミンはソマンを守るために相手がソマンであること、ソマンと付き合っていることは隠した。
クラスの人気者だったハミンの信頼は落ち、悪い噂で溢れる。
こうやってハミンにとって辛いことが重なって重なって、蓄積されていった結果の選択だったんだと思う。
ハミンとソマンの距離が遠のいて、再開した時にハミンはソマンを突き放す。
ソマンは「意気地なし」と言って立ち去ってしまう。
その時、「もし」引き返して限界にいるハミンを抱きしめていたら。
「もし」相手がソマンだとはっきり真実を述べていたら。
「もし」2人が出会っていなければ。
今もハミンはここにいたのだろうか。生きていたのだろうか。
意味のない「もし」。
「もし」には何の力もないけど、後悔を抱えて生きるソマンはそれを6年間繰り返してきた。
この作品はファンタジーではないから、タイムリープして「もし」の瞬間に戻り、未来を変えることなどできない。起きてしまったことは揺ぎようのない事実としてただ目の前に横たわっている。
どんなにソマンが「もし」を思い浮かべても、現実に残るのは「ハミンは二度と戻ってこない」という事実だけ。
その事実を何度も何度も回想シーンを見るたびに突きつけられて、切なくて悲しかった。
回想シーンは回想シーンでしかなく、回想シーンが幸せであればあるほど、その後待ち受ける現実を思い、胸が張り裂けそうになる。
でも、それだけでは終わらなかった。
この作品では残されたものたちがその揺るぎない現実をどのように消化していくか、に焦点が当てられている。
ハミンに対してしてしまった後悔の残る行動。それはソマンだけじゃなくて、ハミンの弟のジェミンも同じだった。
弟はハミンが死んだ日、親友に「お兄ちゃんがいなくなって欲しいと思うことはあるか?」と聞かれ、「時々ある。両親がお兄ちゃんがいるから自分に期待しないから。」と答えてしまう。
その言葉をハミンが聞いていたことをジェミンは知る。
限界だったハミンの、最後のきっかけになってしまったのではないかと自分を責めた。
でも、ソマンはこう言う。
「確かに、ハミンが死んだのはあなたのせいだ。希望を押し付けた両親のせいでもある。辛い時に突き放した私のせいだ。ハミンが、あんなに嫌いだった、夏を少し好きになってしまったせいでもある。」
「罪悪感を1人で抱えないで一緒に抱えて生きていこう。」
そう、ハミンが死んでしまった事実は消えなくて、罪悪感も一生消えない。でも、ハミンが死んだのは1人のせいじゃない。
物事はずっとずっと複雑で、私たちには手に負えないことだってたくさんある。
忘れて生きていくなんてできそうにないけど、1人じゃなくて、みんなで抱えて生きていくことはできる。
今まで6年間ずっと自分を責めてきたソマンが初めてハミンの死を受け止めて前に進む決心をした瞬間でもあった。
その後、ソマンは髪を伸ばし始める。
ハミンは短い髪のソマンが好きだった。
ハミンの好きな髪型をあえてやめることで、前に進む決意表明なのかもしれない。
ソマンは想像の中のハミンにこう聞く。
「後悔してない?」
ハミンはこう答える。
「さあ、どうだと思う?」
ソマンは「あなたが今幸せであって欲しいと思ってる。でも、ほんの少しだけ、後悔しててほしいと思う。」と答えた。
「ほんの少しだけ」後悔しててほしい。
そう、ハミンの選択を尊重したいけど、幸せであってほしいと願うけど、でも、ハミンとソマンの過ごした夏の日々、記憶がハミンにとって、少しでも失いたくないもの、幸せなものであってほしいと言う気持ちからではないかな。
ソマンの気持ちが痛いほどわかるし、最終話で出てきたハミンの姿は全てソマンの想像でしかなく、本当の気持ちは絶対に知ることができないのだなと実感した。
ソマンなりにハミンの死を受け入れ、事実として消化して前に進んでいくために、「最後の手紙を読まない」と言う決断をしたのだと思う。
夏の始まりに始まった恋に、夏の終わりに本当の意味でお別れをしたソマン。
これから生きる残された人々が、罪悪感を1人で抱え込むことがないように。
誰かの手を取る勇気をもつことができるように。
過去に起きた出来事は変えることができないし、現在には揺るぎない事実しか見ることができないけれど。
それでも未来に向かって懸命に前に進むソマンたちをみて救われた気持ちになれたラストだった。
たまらなく苦しくなりながらも、大切なものを感じることができる作品。
少しでも多くの人に見てもらいたいな。
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