心地よくってくすっと笑える、村上春樹『ランゲルハンス島の午後』
え、村上春樹さんって、
こんな方だったのですね!
知らなかった。
小川奈緒さんのvoicy (701回放送) で教えていただいた一冊、『ランゲルハンス島の午後』。
村上春樹の小説は何度か読んだことがあるけれど、村上春樹のエッセイはほとんど読んだことがなかったので、
初めて読んでみて、結構意外な感覚を覚えた。
なんというか、ちょっと面白いのだ。
村上春樹ってどこか暗さがあるイメージだったのだけど、この本はちょっと違う。
安西水丸さんの絵とあいまって、ポップな感じもあるし、くすっと笑えるラインナップ。
日常感じているささいな違和感や気になること、面白いことなどを切り取ってあって、普段スルーしているけれど言われてみたらわたしも気になってたんだよね、と思うような事たちがさらりと描かれていて、うまいなぁ〜ほんとそうだよなー、とにんまりしてしまう。
そして、わたしこういうくすっと笑える、ちょっとシュールでゆるくて面白い話が大好物なので、一通り読んで、好きだー!となりました。
今泉力哉監督の映画の雰囲気にも通ずるものがあるし、
(現在、再上映中の『街の上で』も、最高にくすっと面白い系です)
岸政彦さんの『にがにが日記』にも似た空気感を感じます。
25編のエッセイ、
お気に入りがたくさんあるのだけれど、、、
どの文章も、数行で絵が頭の中に鮮明に広がって驚く。村上春樹がホテルのビルから眼下の女子高を眺めている話が出てくるのだけれど、ある女子高生が逃げるようにすちゃっ!と塀をジャンプ、涼しい顔でたったったっと走り去る様が目に浮かび、駆けていく音も聞こえてくるようでついニヤリとしてしまう。
村上春樹がジャズバーをしていた時にこだわって作っていたお酒の話も、グラスの氷がからーんと弧を描き琥珀のお酒が揺らめく美味しそうな瞬間をそばで眺めているよう。
読んでいて心地よく、捉え方が目新しく、そして、自分だったらどうしたらいいかなと振り返って考えるヒントになるようなエッセイもある。
特にわたしが好きだったのは1の話、「レストランの読書」。
普段から、静かな喫茶店やレストランをいくつか探しておくことで、気持ちがくさくさしてしまったときなどにとても役に立つ、という話があり、わたしもものすごくそういう静かな休憩所を必要としているので、そうか、春樹さんさすがだな!となった。
暮らしをイージーにする知恵、こういうのはどこにも載っていなくて、自分の足で集めるものらしい。ふむふむ。
ロゴ入りトレーナーの違和感には笑ったし、
ラジオの言い間違い話にもニヤニヤ。
"小確幸" つまり、人生における小さいけれど確かな幸せ、の章もあり、春樹さんの小確幸もいいなぁと思い、自分のは何かなー、と思いめぐらせる。
そしてさまざま心地よい話が続いたあとの最後のエッセイで、本のタイトルの"ランゲルハンス島の午後"の種明かしがなされる。
この最後のエッセイはほんとうにいい雰囲気だ。
なんとはなしに書いてあるようにみえるけど、春の風景や温度感、春樹少年がごろんと寝転んで空を見上げる様、映画のように絵が浮かび、こちらまで春の空気にひたひたとひたって体までぽかぽか、優しい気持ちに包まれる。多幸感とともに本を閉じて、、、
夏の暑さや目まぐるしい日常からきりはなされ、
この本はあっというまに自分の周りを
ゆるい空気で包んでくれます。
たまにはゆるっと、いいですね。
夏の疲れに、ひとときの癒しとなりました。
(写真はわたしの小確幸、美味しいカフェラテです。
リーフのラテアートににんまり)
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