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2024年9月に読んだ本の感想–今月の1冊は小谷野敦「恋愛の昭和史」

しばらく書けていなかったらもう10月末になってしまった。
9月は意外とたくさん本が読めたかも。


・「女って何だ?」カレー沢薫



女性である著者が女の生態を観察したり、生き方を掘り下げたりする1冊。
カレー沢先生の本は以前まとめて読んだのだけど語り口が軽妙で読みやすくて最近また新刊をまとめて読んでいる。

つまり、生きているだけで文句をつけられるのが女である。
だったら、自分だけでも自分が納得できる生き方を選ぶしかないだろう。

「女って何だ?」カレー沢薫、朝日文庫、p221


女性の生き方、難しい……

・「穢れた聖地巡礼について」背筋




前作「近畿地方のある場所について」より怖さは少なめかも。謎解き要素もあってラストが気になり、あっという間に読めた。


・「イラク水滸伝」高野秀行



大好きな作家、高野秀行先生の新刊。
1月には講演会にも行ったんだけどずっと読めていなかった。
今までほとんどレポが出ていなかったというイラクの湿地帯を探検して書いた1冊。

高野先生は本当にあったことを書いているのに、湿地帯の王をはじめこれでもかと小説よりも面白い人物ばかり現れて、いっしょに冒険しているような気持ちになれる。すごいなあ。


・「オタクのたのしい創作論」カレー沢薫


主に二次創作の悩みについて書いてある本だったけど、こんな悩みがあるのか……と面白く読めた。
そりゃあ二次創作は人間関係も狭いだろうし同じジャンルなら揉め事も多いだろうなあ……

以下はカレー沢先生の面白くも元気が出る言葉。

もし自分が様々な妄想、そして鬱屈を創作という形で昇華できない人間だったらどうなっていただろうと考えてゾッとすることがある。もしかしたらどストレートに「路上で暴れる」という行為でスッキリしていた可能性さえある。
そのまま出したら人様のご迷惑にしかならないものを「面白かったです」と感謝すらされるエンタメに変換できる能力というのはもはや魔法を授かったといっても過言ではない。

創作は苦悩が多い趣味だ。だが、悩む人全員に「でも創作できる人間に生まれてきてラッキーでしたね」という言葉を贈りたい。

「オタクの楽しい創作論」カレー沢薫、文春e-book,p293


・「何処へ・入江のほとり」正宗白鳥



学生時代「塵埃」が好きだったので再読。恋愛模様が切なくて好き。

「だけど、私そんな経験はない、恋をして悲しくなかったこと私一度もないのよ。貴下に会ってた時分だって、只の一度だって涙の出ない事はなかった。」

「何処へ 入江のほとり」より「塵埃」正宗白鳥、講談社文芸文庫、p130、1998年



・「水晶幻想・禽獣」川端康成




川端の実験的な小説が詰まっていて、言葉の使い方や表現が独特な作品が多かった。イベント出展の時にサークル名が全然思いつかなくて、この短編の名前が好きなのでここからつけることにした。


・「ティンダー・レモンケーキ・エフェクト」葉山莉子




岡田紗夜さんが読んでいたのが面白そうだったので読んだ。ノンフィクションで、マッチングアプリのティンダーで出会った人と日記を交換する主人公の話。
筆者の葉山さんが屈託がないというか、人との関わり方が素直ですごい。性病には気を付けたほうがいいと思うけど……。
彼女の世界の感じ方が瑞々しくて美しかった。

確かに、日記を読むとその人の考え方や価値観を深く知ることができそうでいいなと思った。小説よりノンフィクションが読みたい気分の時もある。

noteも文章のSNSなので少し日記のやり取りと似ているところがある気がした。
別にフォロワーさんとは友達になってご飯に行こうとかそういう距離感ではないのだけど、noteを始めてから世の中には実は私と気が合う人もたくさんいるのかも知れないなと思えて嬉しかった。


・「恋愛の昭和史」小谷野敦



小谷野先生の本は学生時代にレポートを書く時よく読んでいた気がする。
色々な作品を例に挙げて明治~大正~昭和の特に女性の恋愛観を分析する1冊。

戦時中に独身の男女が親しく話すこともできなかったというのはよく聞く話だけど、でも漱石とか川端とか明治大正の文学では男女仲良く話してたりするし……どんな感じだったんだろう? と思っていたけど、やっぱり戦中戦後が特に厳しかったみたいだ。

私は川端の「温泉宿」が大好きなんだけど、その作品の中で登場人物が「初めてでくだらない男に引っかかったら一途に彼を思ったりせずにさっさと次の男を見つけるべき」みたいなことを言い出して今っぽい恋愛観だなーと不思議に思っていたので、疑問が解決したような気がする。

この作品は大正だと思うけど、戦前は意外と緩いところもあるってことなのかも。特に身分が低い女性の場合は。


・「団地のふたり」藤野千夜


50歳、独身、団地に仲良く暮らす幼なじみの女ふたり。
何も起こらないといえばそうなのだけど、周りの人々と関わりながら毎日はゆるやかに続いていく。
こんな友達いたらいいなあ、こんな生活いいなあ、と思える1冊。


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