冒険に満ちた夏─ギヨーム・ブラック『宝島』
喧しい蝉の声とひどい暑さは変わらないが、トンボが飛び、夜には秋の虫が鳴き始めた今日この頃。秋の気配が少しずつ忍び寄ってきているように感じる。
そんな晩夏に、素晴らしい夏の映画を観た。
現在JAIHOで公開中のギヨーム・ブラック『宝島』は、パリ郊外セルジー=ポントワーズにあるレジャー・アイランドを題材にとったドキュメンタリー。
250ヘクタールほどあるという広大な敷地には大きな有料レジャープールがあり、カヌーやボートなどアクティビティも楽しめる。豊かな自然もある。
遊ぶのにも冒険するのにもうってつけの場所だろう。
それにしても、被写体とカメラの遠さに対して音の距離感が非常に近い。アフレコしたんじゃないかと思うほどの臨場感があって、そこから演出とリアルの間を行ったり来たりするスリルが生み出されているんじゃないかと思う。たとえば監視員の男の子と同僚同士で遊びにきている女の子が何かの上から飛び込むシーンなど、どこにマイクを隠しているんだろうと思ってまじまじ見てしまった。
そう、彼らは飛び込む。映画の前半にも橋から川に飛び込む輩が登場する。案外浅くて大怪我するかもと躊躇などせず、ひたすら楽しそうに飛び込んでいく。あっけらかんと遊び呆ける様に、こちらの心まで楽しく高揚してくる。
この映画に出てくる老若男女はときにあられもないほど自我を開放し、一生懸命遊ぶ。一生懸命遊ぼうとする人間、楽しんでいる人間はかわいく、手足の先まで意思と生命力に溢れている。(そんな昼の明るさと打って変わって、少し様子が違う夜のシーンも出てきたりもする。)
ギヨーム・ブラックの作品を観ていると─といっても『7月の物語』『遭難者』はまだ観ていないが─、何にしているかは問わず、生きているひとたちのかわいらしさをしみじみ感じる。大真面目に「首に蛇巻きつけて入場するのはダメだ」なんて発言が出てくる会議とか、白鳥と戯れるスキンヘッドのおじさんとか、そういうものを拾い上げて楽しむギヨーム・ブラックの余裕が眩しい。
余談だが、終盤に出てくる小さい兄弟たちがすごくかわいかった。エンドクレジットによるとミカエルとジョエルソンというらしい。
お兄ちゃんが弟をリードしてあげようと一生懸命で、弟はお兄ちゃんのことを頼っていて、ほんとうにかわいい。目を細めて観てた。
監督の心にも刺さったんだろうな。だって、ほんとうにかわいいから…!
同じくギヨーム・ブラックの、去年劇場公開された監督作品『みんなのヴァカンス』も開放感にあふれて素晴らしい作品だった。ソフトも発売されておらず、現時点では配信もされていないようだ。今年の夏にまた上映されるかと思いきやそんな様子もない。ぜひ何かしらの手段でまた観られますように。
ちなみにギヨーム・ブラック作品を国内で観られる機会は今のところ結構少ないのだが、ときどきMUBIで配信されていることがあるので、要チェック。
それでは、熱中症と台風に気をつけてお過ごしください。
ごきげんよう。