階段を転がる太陽が飲み込んだ黴と暗闇の匂いを僕はスカートの中から見ていたが、太腿を伝って流れ落ちる水はいつまで経っても蒸発することはなく、夕焼けの空を飛び回るカラスが一羽残らず死に絶えるまで少女の肋骨は回転し続けていた。校庭に散らばって有機的な図形を描いているカラスの死体を清掃員のおじいさんがトンボで掃いて集めている。彼は時折カマキリの前脚のように曲がった腰を伸ばして首にかけた青いタオルで汗を拭う。老人の皺だらけの手には苛烈な慈愛と峻厳な柔和が刻み込まれていて、短く切り揃えら
割れるクッキーの官能 つむじっからつまさきへ 割れたクッキーは泣いて 国道沿いでうずくまっていました 死にかけの猫が走る 坩堝坩堝坩堝 甘い黒髪を食みはにかむ 少年少女は戯れます 彼の手が彼女の胸に触れると 東の空を雷鳴が割ります パズルのような曇天を 少年少女は笑います 彼女の舌が彼のちんちんを舐めると 遠くの国で赤ん坊が笑いました 主体を持たない主体 意識の形式を持たない感情 彼らは幸福の国で死んで コーラの炭酸で生き返った!! 不滅不滅不滅の国家 日の丸はバケツの中 全
キャンパスノートの死体! ピンク色のキャンパスノートのだらしなく垂れる手足! 枯れ木のように痩せ細って、偶然と全能感を道連れに朽ち果てゆく手足! そこに群がる4匹の野良犬! 彼らは終わりを知らず、始まりを嫌う 炎天下のアスファルトの上で踊り続け、やがて彼らも死に至る キャンパスノートの死体! 水色のキャンパスノートが情けなく露わにする性器! それは少し勃起したまま雨に打たれ、ふやけていく 水風船のように膨らみ、やがて割れる 少年が近づいてきて、そこに出来た水たまりをすする
症候、症候、症候。 オレはコーヒーがぬるくなるまで待って、アルミの窓を開ける。 今朝の風は冷たい。 冷たい風で顔を洗う。 額のデキモノを潰すと、ぬるぬるとした液体が溢れ出す。 オレはそれを、オレの怠惰だと思った。思い込んだ。 思い込むことにした。 証拠、証拠、証拠。
茶の木らの 隙間を潜る 涼風よ 打ち水が 鼓膜を濡らす 夏の糞 擦り付けたる アスファルト もこもこの 怪獣戦争 夕立前
ミサイルに引っ張られて、 東の空が捲れてく。 8月24日。 草臥れた昨日を連れていく。 君の妹が触れた、 世界の端っこにある花に、 緑色の雨が降る。 8月24日。 雛鳥たちの影が付く。 浮遊し続ける球の上、 ナモナキくちびる達が踊っている。 8月24日。 君たちにも名前をあげよう。
歯の痛みで目が覚めるとそこはこの世で最も太陽に近い場所であった。白い塔の頂上に白いベッドが一つ、その上に白いシーツが一つ、白い枕が一つ、白い私が一つ、そして白い掛け布団が一つ、置いてあった。夏の夜空が暁じんわり白んでいくのと同じスピードで意識が明晰になっていくと、口の中に違和感が転がっているのに気付いた。乾燥した舌先で弄ぶとカラカラと音を立てる。その正体がなんであるかはわからないが、きっと青色のものだろうと思った。確かめるために私はのっそりと上体を起こして、私を覆っていた真っ
机の上で猫が丸まっているのを眺めながら、私はコーヒーを胃に流し込んだ。鉛筆削りのハラワタが砂の上にこぼれて、すぐにウミネコたちがどこからともなく飛んできてそれを啄み始めた。砂混じりのその木屑たちは、死んだふりをしてじっとしているのだが、黄色い嘴にその身を捕らえられた瞬間、うねうねと身じろぎし、何とかそこから抜け出そうとするのだ。あまり洒落た表現ではないが、率直に言ってそれは焼きたてのお好み焼きの上で踊る鰹節そのものだった。猫も同じことを思ったようで、のっそりと立ち上がると、そ
君のかわいい親指が食べたいのに 水は流れ 皿は洗われ また割られ 午後の静けさは血を流す その美しい切りくちに 乾いた唇でくちづけて 薄い青に浮く月に手を 伸ばした彼女を抱き締めに
宵闇に濡れた散歩道 鼻先ではしゃぐ煙草の火 遠くに並ぶ団地の灯 そのひとつひとつの腕の中に 匿われている生活たち アルコールランプの匂いを忘れ 大人たちは笑う 割れたプレパラートの数を数え 子どもたちは眠る 僕が吐き出した煙は天使に会いに空高く飛んでいって、夜空の隅っこの臙脂色のドアの向こうへ姿を消した。僕はそれを見上げながら、酒でも買って帰ろうと決め、煙草の火をサンダルで揉み消して歩き出した。 家路の途中、この夜遅いのに体操着のまま自転車を走らせる中学生とすれ違ったが、
ところで私が足元の石ころを拾って強く握りこむと、雫のように言葉が染み出し、手指の隙間から滴り落ちた。 朝露の如く清廉なそれは、風に乗って空へ浮かび上がろうと身体を薄く広げるが、重力に脚を掴まれ、結局地面と衝突し、またその衝撃で、いつの間にか随分と大きくなっていた体躯をダンゴムシのように丸めた。 最初、小石ほどの大きさだったそれはボウリングボールほどのサイズに成長していた。 私は初め、風の音だと思った。次いでどこかで子犬が鳴いているのだと思った。しかし違った。 聞こえていたの
立方体は白く 直方体は青い 生きるために醜い嘘を吐いた貴方は美しい 夜が猫を食べては吐き出す 脚の細った吐瀉物たちは 超偽善的な街灯に照らされ 濡れた身体はぴちゃぴちゃ光る もう全て忘れていいよ そう言って君は横断歩道を渡る そして数秒前のダンプカーに轢かれ 赤い血が時間のはじっこを赤く塗った 自動嘔吐 間違いはなかった 白昼伸びるビルとビル 屋上朝顔が咲いている 電光掲示板の中で誰かがセックスをしていた 汗も流さず、顔色も変えず ベッドには大量のトマトが転がり 時折
「朝、都市、光(電気ナイフ)」 色を持たない朝が 酩酊を選んだ街を包んでいく 眠りを知らないアスファルトを 怒りを忘れた身体が踏み往く 18、9℃が鼻を抜け 僕らはちょっと死んでみたりする 静かな喧騒 平穏な戦場 清かな異臭 正しい矛盾 静かな喧騒 平穏な戦場 清かな異臭 僕らのいる
最低が咲いていた 路傍のサッカーボールのそばで 君は泪をぱちくりさせて 話の続きをずっと待ってた ベルトコンベアの海を泳いで 魚は溶ける、コーラの中で ぶくぶく歌った彼女の小指 村のお爺さん、猫、犬、家鴨 どうせ全てが終わるのならば なんにも無いを、夢で見たい