6232023
宵闇に濡れた散歩道
鼻先ではしゃぐ煙草の火
遠くに並ぶ団地の灯
そのひとつひとつの腕の中に
匿われている生活たち
アルコールランプの匂いを忘れ
大人たちは笑う
割れたプレパラートの数を数え
子どもたちは眠る
僕が吐き出した煙は天使に会いに空高く飛んでいって、夜空の隅っこの臙脂色のドアの向こうへ姿を消した。僕はそれを見上げながら、酒でも買って帰ろうと決め、煙草の火をサンダルで揉み消して歩き出した。
家路の途中、この夜遅いのに体操着のまま自転車を走らせる中学生とすれ違ったが、なにせ暗くてよく見えなかったので、果たして男の子だったのか女の子だったのか、はっきりとはわからなかった。
ただ、却って扇情的なほどに無機質で冷たい制汗剤の香りが一瞬鼻を掠め、すぐに遠い記憶の中に溶けた。
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