ヘンデルのものとされる音律について(音律史について自分で調べたことのまとめ-5)
以下はyoutubeのコミュニティに投稿した複数の文章をほとんどそのままコピペしたものです。私は研究者ではありませんし、音楽もしていません。情報元はほとんどネット上の論文です。できるだけ18世紀、19世紀当時の直接的な記述を探すようにはしています。
言いたいことは、情報元を確認してほしい、ということです。そして、芸術的解釈と、厳密な音楽史の研究は区別して、どこからどこまでが確実に言えて、どこからは推測なのかをはっきりする必要があります。私はもう音律関係のことを漁るのには満足しましたし、何かこの記事にコメントがあったとしても返すかどうかはわかりませんが、もし何か音律史についてこの記事のようなてきとうなものではなく、きちんとした主張をしたいのならば、ドイツ語の書籍をあさったり、当時の書籍や書簡をあさったりする必要があるかと思います。私はこうしたことをしませんでしたが、研究したい場合、できることです、ぜひそうしてください。
ヘンデルの音律とされる音律についてこちらにあったので紹介します。
'Handel's Temperament' revisited
Colin Pykett
https://www.colinpykett.org.uk/handels-tuning-temperament.htm
1780年、つまりヘンデルの死後にロンドンでヘンデルのものとして不等律の調律法が出版されたようなのですが、ヘンデルとの関係性は相当怪しいようで、このサイトの作者のColin Pykettはこのように述べています。
”The association with Handel is probably spurious ([2], [7]) and as far as this article is concerned it is best ignored, to be pigeonholed alongside similar claims elsewhere for the temperaments allegedly employed by J S Bach. Such unfalsifiable hypotheses, with their inherent encouragement of eternal dispute, do not find a natural home with most scholars.”
『ヘンデルの音律というのはおそらく嘘で、この記事は無視して、これとよく似た主張と一緒に棚上げするのが一番だろう、これこれの音律は伝える所によるとJSbachが使用した音律である、なんて、言うよね。こういう反証不可能な仮定は、固有の盛り上がりを見せ永久に論争は終わらず、決して学者が賛同する地位を獲得することはない』
元サイトに根拠の参考文献が乗っているので、気になる人は覗いてみると良いでしょう。ただまあしかし、この音律が発表されたことは事実であり、前回示したJohann Samuel Petriの引用文でもおそらくこの音律に言及していて、まあまあ広まったことがうかがえます。まあ、そういう感じのモチベーションで私はこれを紹介しますし、Colin Pykettも似たような感じのようです。
じゃあ、1つずつ指南の原文を翻訳します。
First chord (C major):
"In this Chord tune the Fifth pretty flat and the Third considerably too sharp. NB. the Fifth will not bear to be reduced so much below its true accord, as the Third will to be raised above it"
『C major chordでは、五度を割と低く取り、三度ははっきりと相当高くとる。気を付けてほしいが、あまり五度を狭めすぎないこと、(三度が五度の積み重ねでできるからである) (訳注: カッコ内は自信ない、直訳は”それの上にその三度が持ち上げられる”)』
Second chord (G major):
"Let the Fifth be nearer perfect than the last tho' not quite, tune the Third a Fifth to E, make it good but just bearing flat".
『五度はさっきのより純正に近くするが、完全に純正にはしない。三度はEから五度を取ることで作り、E-HのHは良く調律するが、低いようにする』
"Tune all Octaves perfect".
『すべてのオクターヴを取る』
Third chord (D major):
"Tune A, a good fifth to D, trying it at the same time with E, above already tuned. Tune the Third a fifth to B, and let it be near as flat as the fifth in the 1st Chord, this will in some measure bring down the sharpness of the Third".
『AはDへ良く調律し、既に調律しているEとの響きも試す。三度はBから五度を取ることで作り、B-FisはC major chordの五度とおなじぐらいにする、これによりいくらか三度の高さは軽減される。』
Fourth chord (A Major):
"Tune the Third a fifth to F, sharp [sic - presumably this means 'F sharp'] already tuned, let its bearing be the same as the Third in the last Chord".
『三度を既に取ってあるFisから五度を取ることで作る。D majorの三度と同じようになるようにする』
Fifth chord (E major):
"Tune the Third very fine rather bearing sharp, for in fact all Thirds must be tuned sharp more or less, as all fifths should be flat".
『三度を広くというよりも、かなり良く調律する、なぜならば実際すべての三度を多かれ少なかれ高くとらなければならないからだ、全ての五度を狭くとる関係上』
Sixth chord (F major):
"Tune the A, an Octave to A above, when you have drawn the F, to a perfect fifth with C, give it a little inclination higher, that being the same as if you had tuned your C, a fifth to F, giving the C a little flatness".
『Aのオクターヴを下に取る。Fを取るとき、Cとの完全五度で合わせる。多少高く取り、CをFに対して狭く取ったのと同じようになるようにする』
Seventh chord (B flat major):
"Tune the fifth as in the 6th Chord".
Eighth chord (E flat major):
"Tune the fifth as in the last chord".
(B flat major、E flat majorについて)
『さっきと同じように五度を取る』
で、まあ面倒な説明の仕方をしていますが、大体添付画像のような感じではないかと。
意図がわかりづらいですが、おそらく平均律的な音律でありながら、できるだけ使用の多い調で-1centの純正に近い五度が続きかつ、三度もピタゴラスほど鋭くなくかつ、狭い五度がもたらす妙な響きや、それに起因する狭い全音、旋律のがたつきが目立たないような音律にする、ということではないかと思います。C-G、H-Fis、Cis-Gisに狭い五度を散らしているのはそのためなわけです。
また、調律をしやすくする目的もあるかもしれません。厳格な平均律にしようとすると-1.955 centぐらいの五度の響き(もしくは適当なうなりの回数、もしくはその他経験則的に、全ての五度を均等に狭くしているとみなせる狭め方)を覚え、それを11回調律しなければなりません。一方この方法では、多少ぶれて最後のcis-gis、gis-disが広くなったり、狭くなったりしても、もともと凸凹な音律に作っているので問題が目立ちにくいという利点があります。
ちょっとだけパソコン上で試してみた感じ、平均律の亜種、というような響きで、意外にくせがなく扱いやすく感じました。ただH majorのような-5 centの狭い五度が2つある調ではあまり試せていないです。こういう調で、他の調との差が目立ち、結果不快感が生じる可能性があります。
このように平均律に近い音律がミーントーンが比較的強かったイギリスのロンドンで発表されたというのは興味深いところです。1806年、Charles Stanhopeが16~18名の音楽家に意見を聞いた結果、半数が平均律を支持していたとのことです(これについては前のnoteの投稿を参照)。