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大邱旅行#01.ディープな西門市場と豪快な方言、そしてアジュンマ

いつでも行けるし。
いつかきっと行くだろう。

 そう思うからこそ訪れない場所があります。大邱テグ(대구)がそうでした。

 韓国東南部の内陸に位置する大邱広域市は、ソウル特別市、釜山広域市に次ぐ韓国第3の都市です。これだけ大きな都市であれば、何かしら行く機会はあるだろうと思い、自ら計画することはありませんでした。

 韓国に来て、早10年以上。

 意外にも行く機会は一切なく、もうこのまま一生行かない可能性もあるかもしれないと思っていた矢先、日本から友人が遊びに来ることになり、大邱へ旅行に行くというので、ついて行くことにしました。


西門市場(서문시장)と大邱の方言

 東大邱には、お昼過ぎに到着しました。

 そして向かったのは、朝鮮時代中期に始まったといわれる大邱を代表する西門市場(서문시장)です。放射線状に広がる広大な市場で、食材、衣類、靴、鞄、帽子、雑貨、布団、布、食器、鍋、漢方などが所狭しと積み上げられています。ソウルの市場でさえ見たことがないモノ(皮と毛だけになって吊るされているキジとか)もちらほら。屋台も数多く並んでいました。まさに「無いものは無い」といわれる理由が目の前に広がっています。

 そして、西門市場には、アジアの市場独特のカオスな雰囲気が生きていました。

 初めて韓国に来た頃に感じた、ディープで混沌としたあの薫り。異世界に紛れ込んだかのような恐怖感と抑えきれない好奇心、そこに懐かしさが加わって何とも言えない感情が湧き出ます。10年、15年前のソウルみたい。

 それをさらに強調させていたのが、大邱弁でした。

 東大邱駅に到着し、友人に伝えました。「大邱の方言は強すぎるからさ、聞き取れないと思う。期待しないでね(笑)。」実際テレビで大邱弁が流れても、字幕なしでは理解できません。それくらい単語も異なりますし、何をそんなに怒っているのかと勘違いしてしまうほど発音も強烈です。それでも大都市だし標準語を使う人たちも多いはず――という淡い期待を抱いていましたが、この旅で聞こえてきた声はすべて、場所も年代も関係なく、大邱弁でした。

大邱のアジュンマとカルジェビ(칼제비)

 興奮しながら市場を1、2時間ほどうろうろし、さらにディープな小路に入り込むと、大邱語を見事に操る食堂のアジュンマ(おばちゃん)に誘われて、アジュンマおすすめのカルジェビ(칼제비)をいただくことになりました。

 カルジェビは、きし麺に似たカルグクス(칼국수)とスジェビ(수제비)といわれるすいとんが入ったスープ料理です。ぐいぐい豪快なアジュンマが作ったとは思えないほどの優しい味で、キンキンに冷えたお店の中、体の芯まで染み渡るようでした。癒されるぅ~。そして、なぜか食べても食べても減らないという、まったく不思議な料理でもありました。

 「あなたたち、まだここにいるでしょ?」

 食事も終わりかけ、次に行く場所を話し合っている私たちに、アジュンマが声を掛けてきました。お店はアジュンマがひとりで仕切っているようでしたが、これから少し出掛けるというのです。そういうことならと、私たちも会計を済ませて出て行こうとしたのですが、「いいの、いいの。ゆっくり遊んでいきなさい」と言われました。お金は貰ったから、好きなときに出て行けばいいと言うのです。お客さんは他におらず、私たちが出て行けばお店は空っぽになります。

 「え、いいんですか?(ケンチャナヨ?)」

 隣や向かいのお店のアジュンマたちが見てくれているので、良いのだそうです。まるで夏休みのおばあちゃん家感。料理上手で豪快で、いつも優しいおばあちゃんの家に友達と遊びに来たような気分になりました。

 これが、人情味っていうやつなんでしょうね。

(つづく)



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