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#小説

「朝を前にして」

誰かがいる。
私の、右肩甲骨辺りに手をおいている。
そこから、じわと温かな何かが流れ混んでくる。

私はその彼の手を掴んでいる。
そして、それ以上に強く握り返されている。

他の誰にも気づかれないように、そっとテーブルの下に隠して。

「この夜限りの、間違いだよ。」

他の誰かにそう言われた気がした。

私は繋ぐ彼のことを愛している。

彼は私の隣で静かな寝息を立て始めた。

握る手の強さは変わら

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「急き立てられる鳥」

買い物かごをぶら下げて駅前の通りを歩いている。
私が手にしている買い物かごはシリコン樹脂製のぐにゃぐにゃうねるような作りのもので、横50㎝×縦35㎝程の大きさをしている。
かごの下部に向かうにしたがい横幅が狭くなり、底は楕円の形をしている。
ある程度の強度を有しており、何も入れずにおいても、かごの形は崩れない。
普通であれば、折りたためるようなエコバッグをお会計後に広げて使うのだろうけど、私は駅前

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「男と女の観客」

デスクに女が座っている。
ノートパソコンを覗き込み、キーボードを走らせている。
上手から男が登場がしてきた。
彼も片手にはパソコン持ち、おもむろに女の右隣りのデスクに座る。
女は体をはすに動かし、少しだけ男の方に向いた形となる。
男は業務上の話をしに来たようだ。
不自然な間が観客に奇体を飲み込ませる。
男は女の右耳辺りに視線を向けてながら、彼女の変化に言及する。
「新しいピアス?」
「うん」
女の

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