「朝を前にして」

誰かがいる。
私の、右肩甲骨辺りに手をおいている。
そこから、じわと温かな何かが流れ混んでくる。

私はその彼の手を掴んでいる。
そして、それ以上に強く握り返されている。

他の誰にも気づかれないように、そっとテーブルの下に隠して。

「この夜限りの、間違いだよ。」

他の誰かにそう言われた気がした。

私は繋ぐ彼のことを愛している。

彼は私の隣で静かな寝息を立て始めた。

握る手の強さは変わらない。

そのまま夜が明ける。

帰りの駅まで一緒に歩いく。
まだ、靄のかかる薄暗い空から、繋いだ手は、
先ほどの意味も熱も感じられなくなっていた。

「あのビルは、最近できたばかりなんだよ。」
私がそう言うと、彼は興味なさげに返事をした。

私の愛は、ここで一旦終止符を打たれる。

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まゆ
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