没男の小説考④パクリの愉楽
どうも、先日フジロックでノエル・ギャラガーを観て(もちろんプライム配信で)感涙を催しそうになった躁鬱病のギリギリ会社員、没男です。
知らない方にとってはどうでもいいのですが、ノエルには結構パクリ疑惑があります。
WhateverはビートルズのOctopus gardenのコード進行まんまだし、大合唱が巻き起こる英国国歌のDon't look back in angerなんて、出だしからジョン・レノンのImagineじゃんと思ったり‥。枚挙にいとまがありません。
逆もまたしかり!!
いずれにしても彼が稀代のミュージシャンであることに変わりはありません。そして、没男にとっては病前病後と変わらぬアイコンであります。
前置きが長くなりましたが、
あなたの小説は純度100%のオリジナルですか?!気づいたら何かパクってませんか?
ビートルズばかり聴いた人間が作曲したらその曲はビートルズみたいになるんじゃないですか?
村上春樹氏の小説ばかり読んだ人が小説を書いたら、無意識に「やれやれ」をぶち込むんじゃないですか?
何も読まないなら何も書けないですよね。
ということは、
誰もが何かをいろんなレベルでパクっている!!!
ここでは「パクリ」の旨みを味わいたいので、剽窃盗作という重大犯罪ではなく、
オマージュ、パロディ、典拠、引用、翻案といった意味で考えます。
✴︎作中で音楽は流れるか
冒頭、没男はこの駄文中で音楽を流しました。
でも、WhateverとかImagineという単語を見て、
脳内再生されました?
よく、プロでもアマでも作中で音楽を引用する方がいます。クラシックでもジャズでも、ロックでもいいのですが、
脳内再生されますか?
先の村上春樹氏は長編になるとほぼ100%音楽をかけます。題名がすでにジャズのタイトルだったりします。
(没男はハルキストではありません!!!!!)
たまに脳内再生されないケース、ありませんかぁ?結構ある人いませんかぁあ?
没男は音楽オタクでなんでも聴くので、脳内再生されないことはほぼありません。いや、そこそこあります。
ただ、みんな分かるとは限らない!!!
なんで主人公がジョン・コルトレーンのアレを聴いてるんですか?
それ、あなたの親戚の何%が知ってる曲ですか?
知らない曲は脳内再生されない!!!
ならばテキストに組み込まれた楽曲はなんなんでしょう?どんな効果を期待できるでしょう?
没男的には鼻につく!!
必然性がなければなおさら!!
気まぐれにYouTubeとかで確認するかもしれない!!
以上!!!
自分とそのお友達しか知らないネタを披露するのはリスキーです。
必然性があるか俺は俺でない限り、やらない方がG行為の誹りを免れるでしょう。
ま、それでもいいか!
✴︎モチーフの借用
村上春樹氏の「海辺のカフカ」を叩き台にします。没男の頭に真っ先に浮かんだからです。
(没男はハルキストではありません!!!!)
若かりし頃の没男が読んだところ、
古代ギリシャ、ソポクレスの戯曲「オイディプス王」feat.「源氏物語」の六条御息所かい。と思いました。
初読でムフっとなったけど、あからさまなのでとっくに常識でした!!!!
なんか、没男のくせにひけらかしてない?と思われるでしょう。
安心してください。
没男はこの駄文を書くにあたり、朧げな記憶を確認するためにWikipedia等で答え合わせをしている!!!
間違いがあったら優しく教えてください‥
で、オイディプス王は、あれです、「予言通り父を殺し母と交わる」というあれです。おおむねカフカくんの物語の下敷きになってます。
六条御息所は生霊として暴れ回ります。加持祈祷の際のお香の匂いが自分の髪や服についてることに気づいて、あたし生霊になってるん?!と悟ります。
平安時代の段階でフィクションはすでにこの水準まできています。マジでやばいです。
「カフカ」に戻ると、カフカくん?が父を殺害するくだり、カフカくんが谷崎潤一郎訳の源氏を読む場面等にセンサーがあります。
いずれも、このパクリを「変奏」などとカッコイイ言葉で言い換えちゃう論者がいます。
やれやれ。
で、この借用って読んでてなにが面白いの?
ちょっと本読んでる人がムフっとなるだけですか?
作品に奥行きが出るという、なにも言ってないに等しいお考えでしょうか。
この問題は論文としてまとめて雑誌に出しましょう。
ただ、書いていて楽しいだろうなとは思います。
✴︎オリジナリティのありか
中島敦の「山月記」はだいたいの方が読んだことのあるマスターピースでしょう。
高校時代を思い出してください。行かなかった人は興味があればどうぞ。
これ中国、唐代の小説「人虎伝」という話のパクリです。典拠というやつです。これは超有名ですが、残念ながら没男は大学に入るまで、
山月記?
漢字ばかりで読みにくい!!
ぐらいにしか思っていませんでした。
比べてみると分かりますが、中島氏はちょいちょい典拠に手を入れ、特に、かの有名な臆病な自尊心と尊大な羞恥心というキラーフレーズを導入することで、ガチンコの近代文学に仕上げています。
人虎伝はもっとシンプルです。興味がおありであれば、ネットで読めます。
中島氏は父方が儒者の家系です。漢文脈を操れるほぼほぼ最後の作家でしょう。
自分で一から書くより、漢籍をパクる方が上手いと見えます。
悪い意味じゃないですよ?
没男的には、
既存のラーメンにコショウや酢、豆板醤、にんにくなどを投入して味変する!!
イメージです。没男仕様のラーメンになりました。元のラーメンに拠りつつ、没男流のカスタムを施すわけです。
パッと思いつく限り、みんな大好き芥川龍之介もそうですよね。「杜子春」とか。漢籍だけでなく、「今昔物語」を借用したり。
みなさんよく読んでますわ。
黒澤明が撮った「羅生門」も芥川の短編に依拠してますよね。
いま思い出しましたが、源氏を下敷きにした江戸時代の小説に、柳亭種彦の「偐紫田舎源氏」
なるものもあります。没男は未読なので、気になります。
和歌の本歌取りとか、二次創作っぽいやつとか、浄瑠璃や歌舞伎への移植とか思えば日本文学にはパクリの精神が脈打っている気がします。
パクリはジャンルの垣根を越える!!!
ノーボーダー!!!
裏を返せば、
読者が知らなきゃ効果半減かあまり意味がない!!!
ああ、アレに乗っかったのね。という作者との共通認識がないとその作品がピンとこない‥という悲劇が起こります。
もう、没男はついていけない!!!
✴︎太宰のデジャブ
太宰治の「走れメロス」という作品はご存知でしょうか。
知らないとは言わせませんよ。
中学の国語でやってるはずだから!!
諸事情でやってない人は気が向いたら読んでください。
実はもクソもないんですが、この作品、ドイツの詩人シラーの「人質」という詩をパクってます。
シラーといえば、ベートーヴェンの第九最終楽章の歌詞でも知られてますね。
太宰のこのパクリ、やっぱり常識らしいんですが、安心してください。
没男は大学のドイツ文学の講義で初めて知りました!!!
ていうか、小説の最後に(古伝説と、シルレルの詩から。)と太宰はきちんと記しているんで、すっ飛ばした没男に相当の罪があるのです。
太宰も「人質」を詩から小説にリライトするにあたっていじってます。
いろんな人が元ネタとメロスを比べて何かを引き出そうとしています。
齢を重ねた没男はチクチクした学術的なことにもう興味が持てません。
没男が強いて言うならば、この翻案の肝は、
末文の「勇者は、ひどく赤面した。」でしょうか。
漢の鑑的な勇者すら公衆の面前で素っ裸にして恥をかかせちゃうところに、太宰的な捻くれたピエロ志向と自虐的ユーモアが臭ってくるからです。
本作執筆のきっかけに「熱海事件」なるものを指摘する方がいます。
事件の顛末を簡単に示しますと、だいたいこんな感じです。
・太宰、執筆のため熱海に滞在、金尽きる
・太宰妻(事実婚)の依頼で友人の作家檀一雄が金を持って熱海へ
・その金で酒池肉林、また金尽きる
・太宰、菊池寛に金借りると言って檀を熱海に人質として置き去りにし上京
・太宰戻らず、檀上京して太宰探す
・檀、太宰が井伏鱒二と将棋を指しているのを発見、激怒
・太宰「待つ身が辛いか、待たせる身が辛いか」などと言い放つ
走れメロスっぽいですよね。
なかなかの既視感です。
しかも都合よくシラーの詩があるのです。
熱海事件がもし本当に走れメロスの発端だとしたら、
さらに偶然にもパクれる先行作を発見したのだとしたら、
やはり太宰は文学の神に愛されている!!!
としか言いようがありません。
✴︎おわりに
今回はフリック入力するにはかなりカロリーの高いテーマでした。
なにせ記憶が曖昧なので、
禁断のWikipedia参照等を駆使するハメになりました!!重ねて申し上げます!!!
ちなみに太宰パートの原題は「走れ太宰」でした。
でも、やめました。
いろいろ確認する中で、
偶然にも同じタイトルの見出しを発見してしまったからです!!!
そんなときは、先人を敬い潔く身を引きましょう。
No剽窃、No盗作!!!
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