文学フリマ36で連れ帰った作品を読むーその1 あられ工場『ひなの巣』
全13篇の詩は、この「ひなの巣」を舞台に綴られている。冬から始まり初夏を経て新しい年まで、季節のうつろいとともに「ひなの巣」に集う人々の何気ない日常の一コマ一コマ。読み進むにつれて、頭の中に「ひなの巣」が徐々に形づくられていく。
印象的なのは、どの詩にも「ひなの巣」の説明があって、それはいつも「ひなの巣」が「ふきよせ」を作る部署だということなのだが、まるで食事をする際の箸置きのように、あるべき場所に置かれていることだった。「ふきよせ」というのは、調べたら色とりどりのお菓子を一つの器や箱に詰め込んだもののようだ。
もう一つ目を引くのは、そこに多くの人が現れること。数えたら、「その人」を含めて15名もの人が登場している。「その人」以外は皆名前で呼ばれている。家で蟻を飼育している無愛想な森本さん、何故かえるの背中が緑色なんだろうと尋ねるかなちゃん、咽頭癌で亡くなったヤマさん、そして、ふっと顔を出し通り過ぎていく名前で呼ばれる人々。それが日常のリアルを演出している。
複数の詩に登場する人は何人かいるが、私はその中で「古賀さん」のことが気になった。
古賀さんは「おひな菓子は春の色」にも登場し、ある事を「透き通る声で教えてくれた」。その内容はここには書かないが、続く次の連がとても印象に残った。
その次の連がまたこの詩人の独特の眼差しを感じさせるものなのだが、古賀さんが教えてくれた内容にふれてしまうので、引用しないでおく。
気になった方は、ぜひぜひ詩集『ひなの巣』を読んでください。
読み終わった私は、「ひなの巣」が人々の集まる一つの「ふきよせ」なのだなと、お菓子箱の装丁を見ながら、やっと気づいた。
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