誰も幸せになれない恋愛【マチネの終わりに】平野啓一郎著
「壮大なラブストーリーを見た気分」
読み終わった直後に頭に浮かびました。
「上質な文学は何通りもの見方ができる」と
佐藤優さんがおっしゃっていた意味が
よくわかりました。
・主軸はラブストーリー
この話の主軸は
クラシックギタリストの蒔野聡史と
フランスの通信社の記者である小峰洋子の
ラブストーリーでしょう。
主人公の目線ならこうなりますが、
一方で他の見方もできます。
・海外情勢
出版されたのは2016年ですが、
舞台は2006年から2011年です。
洋子がアフガニスタンに赴任したり、
現地で一緒に働いてたジャリーラが
難民としてフランスに来たりと、
日本だけでなく世界の話になってます。
洋子は赴任中に自爆テロに遭いかけました。
私はこの時期、高校生から大学生でした。
ちょうどこの頃、海外で日本人が拉致されたのが
ニュースになっていたのを思い出しました。
世界情勢が不安定なことは感じてました。
紛争に巻き込まれた一般市民のことは
あまり知る機会がなかったので、
生々しさを感じました。
・ズルいことをして手に入れても幸せになれない
2人は困難を乗り越えて結ばれると想像していたけど、運命のいたずらでそれは叶いませんでした。
今思い出しても、ひどく呆れてしまったのは、
後に蒔野の奥さんになったマネージャー三谷。
洋子と交流しているのが
気に入らなかったんでしょう。
蒔野の携帯から勝手に洋子に絶縁宣言ともとれる
メールを送りました。
今ならGmailなどがあり
他の端末からも見ることができます。
しかし、当時はまだガラケー。
端末が壊れてしまったら見ることはできません。
もしこの話が、
スマホが一般的になってきた今の時代なら
話が成り立たなかっただろうとすら思います。
それかもっと早く、このメールの存在に
気づいていたと予想。
そういう手を使ってまで蒔野と結婚した三谷。
洋子に「チケット代金は返すから行かないでくれ」と頼み込んだ時に、あのメールは三谷が送ったと洋子に気づかれました。
その後、夫になった蒔野には
自分から話してしまいました。
2人から軽蔑の目で見られていたのが
印象に残りました。
「それで…あなたは今幸せなの?」と
洋子に言われたり、
「何で黙っててくれないの」と
蒔野に言われたりしました。
幸せを手に入れたはずなのに、
心のどこかにある罪悪感を抱えて
残りの人生を送るだろうと感じました。
・復縁は難しい
洋子も一度解消した婚約者リチャードと結婚。
しかしその後、別の女性と不倫し離婚。
1人息子がいました。
共同親権だったのがリアルでした。
今、日本でも共同親権について議論されてますが、
少なくとも弁護士を通さないと難しいと実感。
子ども自身もあっちへこっちへ場所が変わるので、
子どもによっては、この環境の変化は辛いのではないかと考えさせられました。
うちの長男は、新しい環境に慣れるのに苦労するタイプなので、向いてないと感じました。
リチャードは、経済学者。
彼の論文を読んだ洋子は彼に幻滅。
離婚前は口論になってました。
自分の元に帰ってきたものの、
一度別の男性に心変わりしたという事実が
重くのしかかっていたと感じました。
・感想
「心から幸せになっている人がいない」
登場人物に対してそう感じました。
傍から見ると幸せそうな人も含めて。
それでも自分の運命を受け入れ、
登場人物たちは生きていました。
ずるい手段を使って幸せを手に入れたとしても、
一度「No」を言った人と復縁しても、
長い目で見たら幸せになれないのではないかと感じました。