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超アナログPがIT社長になってWord講習したら社員の人生を変えた話(後編)~組織開発日記#14

2004年当時、「おもしろい番組を作るためなら、予算のことは気にしない」というスタイルを貫いてきた「エクセル知らず」の僕に、さすがに会社の風当たりも厳しめになっているのは感じておりました。
そして、ゴールデン進出をひそかに目論んでいた「くりぃむしちゅーコント特番2」の番組収録直前に、ついに「管理会計部門」への異動を命じられます。


ドロボーが警察に

当時の自分は「さんまのSUPERからくりTV」のプロデューサー兼総合演出。ドリフからたたき上げて20年、自分で言うのもなんですが、長年TBSのバラエティを支えてきたという自負はありました。

この異動は、業界に衝撃が走るだろうなあ。さんまさんも、まさか「番組やめる」とか言わないだろうなあ。とか考えていたところ、気持ちいいくらい全くそんなことはなく、むしろ「ドロボーが警察になりやがった」と役員が爆笑したというネタが流布され、皆にも大笑いされました。
当然、くりぃむしちゅーさんとのゴールデン番組の野望も、夢と消えたのです。
 
ところで、異動した先は「カンリカイケイ」ですから。本当にエクセルを使いこなせないと、会社の業績に影響を与えかねません。
またワードも、会社の上層部などにきちんとしたレポートを書く必要があり、これまでの荒くれ者ぶりがウソのように、ワード&エクセルを、必死で習得したのです。
エクセルもワードも、その機能のスゴさに、習得する過程で、何度「おーっ」と声を上げたかわかりません。「こんなことが、こんな簡単にできるんだ!もっと早く知っておくべきだった・・・」
 
やるとなったら、とことんやるのがこの男。「全員集合」のADの頃、
「あまりにも何も知らないから吸収が早い」とプロデューサーに笑われ、「スポンジ園田」の愛称で可愛がられていただけあって、異動後1年もたたないうちに、マクロ機能までも駆使する、社内でも名うての「エクセル使い」になっていたのです。

そしてその15年後、かつて「ドロボーと呼ばれた男」がグループのIT部門などを担う会社の社長になっているわけですから、人生、何が起こるか本当にわかりません。

僕がWord講習をやる理由

さて、そんな僕がなぜワード勉強会などをやっているのか?いろいろありますが、主な理由は3つあります。

無知の知

ひとつは、「知らないことがまだまだある、と気づいて欲しいから」ということです。
先ほども述べましたが、ワードの勉強会では、僕が教えられる程度の「最低限、ココだけは知っといてね」という基本機能のみを紹介していきます。時に参加者の方が詳しいこともあり、その瞬間は、その参加者が講師になります。

勉強会の合間には、参加者の「おーっ」「本当だ」などのリアクションがあります。みんな知っているようで実は知らないのがワード。終了後のアンケートで一番多い感想が「目からウロコでした」「もっとはやく知りたかった」といったコメントです。

グロウディアの行動規範、グロウディズムには、「貪欲に学ぼう。行動に移そう」というものがあります。
学びの最大の動機は、ソクラテスが言ったと伝えられる有名な言葉、「無知の知」。「自分は何も知らない、ということだけは知っている」という気づきです。
 
さらに、組織心理学者のアダム・グラントは著書「THINK AGAIN」の中で謙虚さの必要性を述べた上で、人気ブロガー、ティム・アーバンのこんな言葉を紹介しています。
「傲慢とは、無知に確信を足したようなもの」

『THINK AGAIN』 アダム・グラント著/三笠書房

制作現場時代の僕は、その分野でのパフォーマンスはそこそこ高かったのかもしれません。でも、とんだ傲慢ヤローだったかも。ひょっとして「裸の王様」化していたのでは?そう思うと本当に怖いです。コワいくらい、コワい。

社員とのコミュニケーション

ふたつめは、社員とのコミュニケーションです。
グロウディアは7社が合併してできた会社で、すぐにコロナが蔓延したのでこの勉強会もリモートベース。僕にとってみればZOOMの画面は、社員の顔と名前を一致させる絶好の機会だったのです。自分で文書を作りながらの勉強会なので退屈はさせませんし、2時間くらいの間、オンラインでいろんな社員とワイワイ言いながらやるのはとても楽しいものでした。(社員もそう思っていることを、ただ祈る・・)

社員が作ってくれた、全17ページのテキスト

すべては文書を受け取ったひとのため

ワード勉強会をなぜやるか?みっつめの理由は、「ワードの基本ルールを無視して打った文書は、もらうと迷惑だから」です。
僕がこの勉強会を始めたきっかけは、TBSグロウディアが設立される2年ほど前のことでした。
当時僕は、担当する部門のいろんな管理職から送られてくる報告メモを、自分の資料としてひとつにまとめる必要がありました。その際、ひとりの部長から送られてくるメモがこんな具合だったのです。各行のヨコの編集記号に注目してください(文章の内容は変えています)。

Enterキーを押すと、段落が変わってしまう

この文書の何が迷惑なのか?それは、こういう風に打たれた文章を、他の文書(ワードでもドキュメントでもメールでもよい)にコピペするとわかります。
ワードで、Enterキーを押すということは、「段落を変える」ことを意味します。これがあまり知られておらず、単なる改行のためにEnterキーを押す人が多すぎるのです。こうして打たれた文書をコピペすると、文章の途中に無駄なスペースがうまれ、修正に時間がかかります。

もうひとつ、これも当社のマネージャーが実際に書いたレポートの一部です。(内容は変えています)

スペースキーは、「諸悪の根源」?

これの何がダメなのかといえば、無駄に「スペースキー」を使っていてこのサイズで最適化されているため、表示サイズを変えたり、コピペするたびに、また調整が必要だということ。
さらに箇条書き機能を使っていないため、後で箇条書きの①②③の順を変えたりする際に、とても手間がかかるということです。
 
まだまだあるのですが、ポイントは、「文書をうけとった人が再利用しやすいように打つ」ということです。これはパワポでもエクセルでも言えることです。特に、ワードにおいては、Enterキーの無駄な使用と、スペースキーでの帳尻合わせが、2大諸悪の根源なのです。

マサコさんの感想

最後に、ワード勉強会の事後のアンケートにあった、総務のマサコさんの感想を紹介します。

「自分の生き方を指摘されたような衝撃を受けました。今回の講習を受け、帳尻合わせのような人生はやめることにします。」 

僕は、このコメントに爆笑し、マサコさんの言葉のセンスに感銘を受け、そしてこうも思ったのです。
ひょっとして私たちの日常にも、「自分が知らないだけの、人生を変える何か」が、まだまだ潜んでいるのかもしれない、と。






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