オノマトペピアノ 毎週ショートショートnote
「あれがいいかな」
父は小さなおもちゃのピアノを指さした。
「1才のお誕生だろう?本物はいくら何でも早すぎるしな」
「そうね、いいの?おとうさん」
「ああ、いいよ」
父は車椅子の後ろから自分の財布を出して払ってこいと私に言う。
孫の為のおもちゃのピアノ。
「お前にも買ってやりたかった…ピアノ…」
「買ってくれたじゃん」
「あれもおもちゃだった。それと一緒。音も鳴ったが、なにやら押したらワンワンだのニャーニャーだの、動物の鳴き声のするほうがお前は喜んでたなあ」
「そうだったかな?忘れちゃったよ、さすがに…」
「すまなかったな。母さんが早くに逝ったから、お前には何もしてやれなかった」
「そんなことないよ」
「本物のピアノ弾きたかったろう?」
「もう、いいってば。その分あの子にしてくれてるし」
「すまんかった」
父は俯いて小さくなった肩を震わせた。
私は車椅子を押してて頬をぬぐえない。
父と出かける度にこの玩具店でピアノを買うふりをする。
大切な日々。
完410
愛の夢 第3番 変イ長調 S.541-3(リスト)
フジコ・ヘミング
フジコ・ヘミング・トピック
たらはかにさんの毎週ショートショートの企画、今週のお題「オノパトペピアノ」に参加させていただきました。ちょっとお題の意図とは違うかもしれませんが。
いつか私にもくるかもしれない日々。
その時にはどんな夢をみるのだろう。