子供のためのオルセー美術館(98)くだけ散る波/モネ・初めての海を描く
いつものノルマンディの海峡とは全然違う海
ガリガリとがった岩、ぶつかって泡になる波。
ブルトン諸島の島に初めて行ったモネはびっくりしました。
今まで見たことのない海だったのです。
岩と岩との隙間にも海は容赦なく入り込んで。この勢い、このぶつかりあいはどうでしょう。
絶えずしぶきをあげる波を、モネは幅広い筆で短くぐいっぐいっとキャンバスにぶつけていったのです。
モネの前にはもうこの海があるだけで、いつもの広い空は全然見えません。
嵐が来るぞ!
島はあっという間に灰色の雲がのしかかりました。
海はとたんにごおごおうねって突き出た岩をおそいます。
たたきつける雹と突風。モネは手も顔もキャンバスにも、穴があくんじゃないかと思ったほどです。
それでもモネは、右に左に、縦にも斜めにも、激しく筆を動かしました。
海はとがった岩をつぎつぎになぎたおす勢いで
向こうの岩は、こなごなになった白いあわで見えなくなりました。
どんな天気の日でも海の前に立つモネを見て、漁師たちは驚きました。ぶ厚くて重い長靴を履き、自分たちと同じ格好をして絵を描くモネ。
こうしてモネは、人も寄せつけない厳しく激しい海を、毎日描き続けたのでした。
Claude Monet
Les Rochers de Belle-Île, la côte sauvage 1886
クロード・モネ
ベルイルの岩、荒々しい海岸 1886
Claude Monet
Tempête, côtes de Belle-Île 1886
クロード・モネ
嵐の海 ベリール岩礁 1886
お読みいただきありがとうございました。
いつものモネとは違う雰囲気の絵をご紹介しました。ここを描いた絵は日本のアーティゾン美術館でご覧になった方もいると思います。
毎日オマールばかり食べウンザリだと言ったモネは、漁師たちと共に暮らしていくうちにその生活に溶け込んでいきます。
ある嵐の日、3艘の漁船で出た漁師の船が1艘しか戻ってきません。村人たちは捜索に出ますが見つかりません。モネは手紙にこう書きました。
「ここは混乱している、 今朝は天気が良かったのに。漁師の妻や姉妹など全員が泣いている。 悲劇を目の当たりにして胸が張り裂けそうだ」
「夕食時には宿は狼狽した人々でいっぱいだった。出発した漁師の2人の父親が、海岸沿いの捜索から戻ってきてもう彼らを待つ必要はないと告げた。(彼らは死んで沈んだんだと)涙をこらえるのが大変だった。
すると突然、物音がして足音がした。
2隻の船の6人が入ってきたんだ!ジョークと笑いでこの事件は幕を閉じて、私はやっと夕食をとることができた... 」
モネの道案内をしてくれていた漁師の肖像画もまた改めてご紹介します。