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子供のためのオルセー美術館(98)くだけ散る波/モネ・初めての海を描く

いつものノルマンディの海峡かいきょうとは全然違ぜんぜんちがうみ


ガリガリとがったいわ、ぶつかってあわになるなみ

Wikipedia

ブルトン諸島しょとうしまはじめてったモネはびっくりしました。
いままで見たことのない海だったのです。


岩と岩との隙間すきまにも海は容赦ようしゃなくんで。このいきおい、このぶつかりあいはどうでしょう。

えずしぶきをあげるなみを、モネは幅広はばひろふでみじかくぐいっぐいっとキャンバスにぶつけていったのです。

モネの前にはもうこのうみがあるだけで、いつものひろそら全然ぜんぜん見えません。


あらしるぞ!


しまはあっという灰色はいいろくもがのしかかりました。
海はとたんにごおごおうねっていわをおそいます。
たたきつけるひょう突風とっぷう。モネは手もかおもキャンバスにも、あながあくんじゃないかとおもったほどです。
それでもモネは、みぎひだりに、たてにもななめにも、はげしくふでうごかしました。

うみはとがったいわをつぎつぎになぎたおすいきおいで

こうのいわは、こなごなになったしろいあわでえなくなりました。


どんな天気てんきでもうみまえつモネを見て、漁師りょうしたちはおどろきました。ぶあつくておも長靴ながぐつき、自分じぶんたちとおな格好かっこうをしてくモネ。

こうしてモネは、人もせつけないきびしくはげしいうみを、毎日まいにち描きつづけたのでした。


Claude Monet
Les Rochers de Belle-Île, la côte sauvage 1886
クロード・モネ
ベルイルの岩、荒々しい海岸  1886

「私は荒々しい野生の国にいる、岩の山、信じられないような色の海。とても興奮している。私は今まで海峡を描くのに慣れていてどうしても自分のルーティンがあったから。でもこの海は全く別のものだ」(モネからギュスターヴ・カイユボットへの手紙)
ブルトン諸島最大の島、ベルイルは、19世紀の芸術家や作家が訪れることはほとんどなかった。異なる風景や雰囲気を求めていたモネは2週間の予定を延ばして1886年9月12日から11月25日まで滞在した。
当初モネは、容易には近づけない自然、絶えず変化する天候、興味のある場所へのアクセスの難しさに尻込みした。しかし切り立った崖や険しい張り出しに怯むことなく選んだモチーフの前に頑固に立ち向かった。
モネは5枚の絵を描いているが、この作品は、岩と海との戦いをより深く表現することができる唯一大判の作品である。
水平線は非常に高く設定され、印象派の美学と密接な関係にある日本の版画技法に則って、空を描く余地はほとんどない。海の並外れた大気の振動が強烈な色彩で表現されている。

musée d’orsay 

Claude Monet
Tempête, côtes de Belle-Île 1886
クロード・モネ
嵐の海 ベリール岩礁 1886

10月中旬になると、悪天候の毎日になった。突風がモネに追い打ちをかける中、モネは悪天候でも絵を描くことができる避難場所であるプラージュ・デ・キュレにたどり着いた。心配した画商のポール・デュラン=リュエルは「戻って南仏で冬を過ごす」ことを勧めた。しかし、嵐の海と濃霧に情熱を見出したクロード・モネはここに固執した。「要するに、私も霧の男なのだ」とモネは書いている。
友人オクターヴ・ミルボーは後にロダンへの手紙でこう書いた。「私はベル=イルでモネと8日間過ごした。彼はとてもすごい経験をした。これは彼の才能に新たな力を与えるだろう。恐ろしく、手強いモネ...」

Office de Tourisme de Belle-Île-en-Mer

お読みいただきありがとうございました。
いつものモネとは違う雰囲気の絵をご紹介しました。ここを描いた絵は日本のアーティゾン美術館でご覧になった方もいると思います。
毎日オマールばかり食べウンザリだと言ったモネは、漁師たちと共に暮らしていくうちにその生活に溶け込んでいきます。
ある嵐の日、3艘の漁船で出た漁師の船が1艘しか戻ってきません。村人たちは捜索に出ますが見つかりません。モネは手紙にこう書きました。

「ここは混乱している、 今朝は天気が良かったのに。漁師の妻や姉妹など全員が泣いている。 悲劇を目の当たりにして胸が張り裂けそうだ」
「夕食時には宿は狼狽した人々でいっぱいだった。出発した漁師の2人の父親が、海岸沿いの捜索から戻ってきてもう彼らを待つ必要はないと告げた。(彼らは死んで沈んだんだと)涙をこらえるのが大変だった。
すると突然、物音がして足音がした。
2隻の船の6人が入ってきたんだ!ジョークと笑いでこの事件は幕を閉じて、私はやっと夕食をとることができた... 」

モネの道案内をしてくれていた漁師の肖像画もまた改めてご紹介します。

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