ぽんぽこ もふり道
居場所がない!?
夜、帰りたくなくて、車に籠る。
理由はシンプルにひとつなのだが、帰ればどの部屋にいても安らげず逃げ場がないという案件なので、自分にとっては深刻だった。
マンションの駐車場では人目が気になり、着いたばかりなのに車を出す。
どこもお店は閉まっていて、居場所を探すのに一苦労だ。
遅くまでやっている商業施設の立体駐車場に停め、シャンプー&トリートメントの使いきり3種とバスソルトの小袋を購入。無料で停めさせてもらうのは気が引けたから。
本を読む。
蛍光灯の心許ない灯りの下。
それでもストーリーのなかに飛び込んで、ほんのひととき自分が何者であるかを忘れる。
あっという間に22時。
営業終了時刻のガランとした駐車場で、まさか人類滅亡したのか?と不安になる。道路に出ると、信号機の青が眩しい。
さて、どこ行こう。
渡りもふ!
しばらく車を走らせると、カーブの多い細道にさしかかった。この辺りは、夜間、よく猫が飛び出してくるので、後続車にあおられてもゆっくりと走ることにしている。
用心していた矢先、右側の舗道に赤く光る目を見つけた。徐々にスピードを落とす。おや?いつもは猫の目、黄緑色に光って見えるのに。
次第に近づくと、蠢く影の正体が、ライトに照され露になった。
「狸?」
しかも二匹いる。
狸達は道を渡ろうとしていたが、体をビクッとさせ、二匹揃ってこちらを見つめた。
やがて、車が止まったことがわかると、意を決したようにヨチヨチ走り(歩き?)出した。
本人(狸)達はいたって迅速に横断しているつもりらしいのだが、もう対向車が迫ってきていた。
このままでは轢かれてしまう。咄嗟にライトを上向きにして、狸達に光を浴びせ、その存在を知らせた。
もふもふ冬毛の二匹はなんとか無事向こう岸にたどり着くと、小学校の門の下をんしょんしょくぐって夜の闇に消えた。
「タヌキだ…タヌキいた。可愛い可愛い可愛い!」
その日はじめて温もりを感じるものに出会い、しかも狸であったという驚きと喜びで独り言が止まらない。
ぽんぽこ もふり道
いや、ちょっと待て。
唐突に、ところでちなみにそういえば…なんだけど。
彼らには帰る場所がちゃんとあるのだろうか?
二匹寄り添っていれば、そこが家になるのだろうか?
それとも、人間に棲む場所を追われ、流れ流れていまここを横切ったのか?
我が身を可哀想がっていたさっきまでの自分は、狸くん達の心配をはじめていた。健気でか弱い存在と決めつけて。
でもすぐに、『平成狸合戦ぽんぽこ』が、令和の現在も容赦なく繰り広げられているのか?という考えに至る。
棲みかを奪われた狸と、居場所を探し彷徨う自分をちょっとでも重ねたことに反省。
もふもふを極めた冬毛は、あくまで可愛く温かくあの子達を寒さから守る。そして力を蓄え、生きる場所を探す。
やわらかく やり過ごすのだ もふもふと
春が来ぬなら 迎えに行こう
狸達から処世術を学んだ気がした、凍えるほど寒い冬の夜のことだった。
~ もふ(終) ~
最後まで読んでいただき、ありがとうございもふ!✨