UFOと三角と渦巻…ところによりナス ~ワンダーランドは徒歩圏内にあった~#3
※子ども時代の記憶をつづったエッセイです。
時をだいぶ巻き戻して、私が幼稚園児のロッタだった頃。毎週末、楽しみにしていたことがあった。
それは、“日曜の昼前に隣町のパン屋さんでパンを買い、お昼ごはんのときに食べる”ということ。
我が家ではそれが週末の習慣となっていた。
当時、日曜のモーニングルーティーンは、朝起きてまずはじめに、休みだからとまだ寝ている父に弟と乗っかってプロレス技で起こし、ウルトラマンごっこにもつれ込む。
そして朝ごはんの時間には、ラジオ番組『音楽の泉』のクラシック音楽を流して、なんとなく優雅な雰囲気を演出。
食後は、赤いロボットと人間の子どもが出てくる子ども向け実写ドラマを鑑賞。
つぎに祖父の書斎の椅子に座って博士気分を味わい、祖母の衣装部屋のなかをジャングルに見立てて探険していると、気づけば11時になっている。
すると、階下から母が私を呼んだ。
「ロッタちゃーん、パン屋さん一緒に行くー?」という申し出に、
「40秒で仕度しな!」と自分のマインドに指令を出し、ハトを放し、ナイフ,ランプ鞄につめ込んで(あくまでマインド)ものの10秒で玄関に整列した。(ひとりで)
パン屋へ行くメリットは、母をその時間ひとり占めできること。それから、自分の好きなパンが選べることである。
道中、よその月極駐車場の塀から下を覗くのが当時のお決まりとなっていて、そこはガクンと低くなった土地が畑になっていた。
畑の作物を気の済むまで眺めたあと、再び歩き始める。
さらに畑の横の脇道に入り、坂に無理やり段差を作ったような幅の広い階段を降りる。アスファルトと階段のコンクリートのわずかな隙間から、種が飛んだのか?赤シソが生えていたり、あるときは本当に謎なのだが、ナスが生えていて実まで成っていた。
そういえば…前に祖母がそのナスのところで転んでしまったことがあった。子どものロッタはどうしたらよいのかわからなくて、隣りでしゃがみ込み、声すらかけられず、祖母とナスとを交互に見ながら「いたいのいたいの飛んでけ」と念じていた。
母にも後日、「ここでおばあちゃんがスッテンしたんだよ!」と通るたびにロッタが鼻息荒く実演しながら説明していた、と教えられた。
やがて、車通りの多い道にぶち当たり、横断歩道を渡れば、いつものパン屋さんに到着だ。
茶色いタイル張りの外観に、ウインドウから見えるのは、私の心を鷲掴みにするパンたち。
一歩なかに入れば、やさしい甘い薫り。日曜日の匂いだ!
いそいそとトングを持ち、母の持つトレイにパンを載せてゆく。
やっぱり外せないのはチョココロネでしょー、あとナポリタンドッグとハンバーガー、それに三角蒸しパン…
おかあさんはどうしてイギリスパン(山型の食パン)なんて買うのかしら?味しないのに。←あとから家でピーナッツバターを塗ってもらいご機嫌になる。
そして、陳列棚の特等席に鎮座ましますのは、絶対に買う!と心に決めていた…
UFOパン!!!
なんてロマンとスペクタクルに溢れた名前。負けず劣らず子ども心を虜にするそのフォルム。
※説明しよう! UFOパンとは、丸いパンにクッキー生地を載せて焼いたスイートブールというパンなのだ!このパン屋さんではクッキー生地を惜しげもなくはみ出させて耳をぐるりと作り、まるでUFOな形にしちゃったのであーる!(タツ○コプロ風)
これがなくちゃ私の日曜日は完成しない。
UFOの耳がひときわ大きいものを厳選して買ってもらった。完璧だ。
たくさんのパンが入った英字印刷の紙袋を抱えてホクホクしながら帰ると、すぐにお昼ごはんとなった。
まずは三角の黒糖蒸しパンから。苦手な干しブドウの及んでいない三角の先端を選び、そこだけ欠いて食べる。うまし。
つぎにチョココロネ。チョコの蓋であるフィルムを剥がし、渦巻に沿ってしゅるしゅるその渦を解いて楽しむ。うまし。
そして!大トリは、待ってました!のUFOパン。本命は最後に残しておく典型的な長子気質のロッタであった。
UFOの耳、すなわちクッキー部分をすべて取り外す。
ここがいちばん甘くて、しっとりしつつもホロッとした食感で、うーん、やっぱり美味しい♪
2個目のUFOパンをいただこうとしたとき、
「あっ!またロッタ、丸いとこ残してる」
父にバレた。
そう、UFOパンの周りだけを平らげ、真ん中の半球は丸々お皿に載ったままだった。
もはや耳を取ったUFOパンは飛べないUFOだ。
飛べないUFOはただのUFOですらない。
周りより甘くない、白パンにうっすらクッキー生地がかかっているだけの真ん中部分には見向きもしなかった。
子どものロッタは初孫で甘えたい放題甘え、偏食児であることを逆手にとって、「これなら食べられるのか」と祖父母を喜ばせるべく、ひとのUFOパンの耳にまで手を伸ばしていたのである。
おそろしい子…。
端っこ、三角などをとくに好んで食べる癖は、カステラの不織布についた甘い茶色や、切り分けられたケーキの三角の先端、スイカの三角てっぺんにも及んだ。
そして、UFOパンを想うとき、いつもリンクして思い出すのは、アスファルトから生えたナスの側で祖母が転んでしまったこと。
それと、家族と過ごした日曜日の平和な時間なのである。
あの時間にタイムスリップできたらいいのに…とちょっとセンチメンタルになる大人のロッタであった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました🍀