【H】兵庫県知事選 斎藤元彦再選 テレビがネットに完敗した日 「マスメディアは自身の検証報道を行い、分断の芽を摘め」
タイトルは私なりに新聞の社説をイメージしてつけた。
さて、全国的な注目を集めた2024年11月17日投開票の兵庫県知事選は、多数のメディアが、午後8時の投票締め切りと同時に斎藤元彦前知事の当選確実を伝え、いわゆるゼロ打ちとなった。斎藤前知事がそれなりの差をつけて勝利したということになる。
私は11月16日に投稿した記事で「斎藤元彦前知事が勝利すべき」だと論じた。
その理由は、斎藤知事が失職に至るまでの過程を支配していた「斎藤悪玉論」に対して、ネットを中心に(デマ・陰謀論では片付けられない)カウンター的な情報や考察が多数でてきており、斎藤知事の是非についての問題は「未解決」だと考えるのが妥当だと思ったからだ。斎藤知事の敗北によって斎藤悪玉論が不当な仕方で確定するのは避けるべきであって、斎藤知事のもとでの百条委員会の完遂と第三者委員会の報告を待つべきだと思われたのである。上の記事では、このことを主張するために斎藤前知事は黒ではないことを論証しようと試みた。
本記事においては、今回の選挙ではマスメディアがネットに「報道として」完敗したこと、マスメディアはこのことを反省して再起すべきこと、この二点を論じて、今回の選挙を振り返りとしたい。
1、マスメディアは「報道として」ネットに完敗した
今回の選挙を振り返るとき、マスメディアの劣化の激しさを露呈した選挙だったと言わざるを得ない。マスメディアはある時期まで一方的な斎藤元彦悪玉論を展開しておきながら、それに対するカウンター的な情報や考察が出てきても、全く報道しなかった。デマや陰謀論と呼ばれるべきものもあるにせよ、それだけでは片付けられない新しい情報や考察が出てくるネットに、テレビは、報道として、完全に負けていた。
1-1、立花孝志氏が公開した百条委員会の「不倫日記」流出音声
この新しい情報や考察について、いくつか具体的に述べれば、一つは立花孝志氏が自身のYoutube等で公開した百条委員会の流出音声。ここには片山副知事が公用PCの中身として「告発文書、クーデター計画、複数人との不倫日記」を証言したところ、最後の不倫日記のところで強引に証言が遮られるさまが録音されている。
1-2、福永・石丸両弁護士による公益通報者保護法についての理論武装
もう一つは、立花氏と仲が良い弁護士たちによる公益通報者保護法の解説。具体的にはYoutubeで配信している福永活也弁護士や石丸幸人弁護士(下にリンクを貼った)。これらは百条委員会で斎藤知事側の対応を違法とした専門家たちに対する異論となっている。これは立花側の情報だ!と言われればそれまでだが、私には内容が説得的だと思われたので、前の記事でも私なりの理解の構築に採用させていただいた。
1-3、新田哲史氏が公開したマスメディアの隠蔽工作の証拠音声
また、YoutubeやnoteのSAKISIRUチャンネルで新田哲史氏が公開した、百条委員会の秘密会後の片山前知事に対するマスメディアの囲み取材の流出音声では、「不倫日記」への言及を、NHK、朝日新聞、読売新聞の記者が必死に止めようとしたり、糾弾したりするさまが記録されている。事態を明らかにすることを任務とするマスメディアは、なぜか必死に何かを隠そうとしているわけである。
1-4、香椎なつ氏による告発文書の内容分析
また、告発文書の中身の分析に関しては、普段ゲーム実況を配信されているYoutubeの香椎なつ氏の動画が、私には一番鋭いものだと思われた。
1-5、一節の結論
私には、これらの情報源の方が、マスメディアに比べて情報としても考察としても数段優れているように思われた。マスメディアが「報道として」ネットに完敗したと言う所以である。
また、以上で触れなかったパワハラ・おねだりについては、7月に発表された公益通報窓口の調査では認定されなかったし、百条委員会でも明確な認定はまだされていないことに注意が必要であると思う。
2、マスメディアは自身の検証報道を行い、分断の芽を摘め
私は、前回の記事の最後で以下のように論じた。
ざっと見た限りでは、マスメディアは「自らの決定的な罪を認める」ということには至っていないようだ。斎藤陣営のSNS戦略が優れていたといった非常に表面的な分析で取り繕い、選挙結果を一応は理解可能なものにしようとしているようである。それは私からすれば滅茶苦茶だが、少なくともそれ自体で支離滅裂ということはないだろう。
だが、いまのマスメディアに求めるべきは、このような表層的な分析ではなく、タイトルにある通り「自身の検証報道を行い、分断の芽を摘め」であると私は思う。というのも、この選挙を通じて、いま兵庫県に、いや日本中に、大きな分断が生まれているからだ。
マスメディアしか見ていない人から見れば、今回の選挙結果は理解不能だろう。そこからは即「パワハラで部下を死に追いやった人を知事に再選するなんて、兵庫県民はクズだ!」とか、「SNSで蔓延するデマや陰謀論に騙されたバカが選挙結果を決めてしまうなんて、民主主義の終わりだ!」といった認識が生まれてきてしまう。このように自分と意見が違う存在は「クズ」や「バカ」だ、つまり、「道徳的・知的に劣悪」だという見方が支配すること、それがまさに分断という語のいわんとすることである。
他方で、マスメディアに偏向報道があるとすれば、ネットにはデマや陰謀論が多数あることも事実である。マスメディアが全く信頼を失っていくとすれば、社会的に共有された標準的な事実が存在しなくなり、ネット上のデマや陰謀論を信じた人たちが、それを知らない人たちを「クズ」や「バカ」と見下していくという分断も、より一層加速して行きかねない。
だから、いまマスメディアに求められるのは自身の報道の検証報道なのである。そこで行われるべきは、マスメディアの斎藤悪玉論は性急な偏向報道であったことを認めること、それとは別な見方もネット上で公開された新しい情報や考察を踏まえれば十分に成り立つことを認めることである。それはすなわち、今回の選挙結果を生み出した兵庫県民は「バカ」でも「クズ」でもないと明確に言うことなのである。
このような姿勢を通じて、マスメディアの公正性が見直されるならば、社会的に共有された事実認識を提供するというマスメディアの機能も守られ、デマや陰謀論主導の分断にも、一定の歯止めがかかることが期待できよう。マスメディアが完全に信頼を失えば、何が事実かわからない、何でもありだという世界がやってきてしまう。マスメディアが今回はネットに完敗したことを認め、「墓標」のなかから再起することを期待したい所以である。