著者が語る:『愛の論理学』<同性婚>!
『愛の論理学』は、マスターとバイトのアイと常連の名誉教授が飲んでいるバーにゲストが訪れて、4人が多彩な「愛」に関わる問題を議論する形式になっている。本書の目的は、『哲学ディベート』や『自己分析論』などと同じように、読者が臨場感を味わいながらディスカッションに一緒に参加して、自分自身の見解を自由自在に考え抜くことにある。
その「第5夜:『同性愛』と『同性婚』<社会学的アプローチ>」の名誉教授は、次のように語る(PP. 148-153)。
名誉教授 二〇〇一年四月、世界で最初にオランダが、「異性婚」と同等の権利を「同性婚」に認める「同性婚法」を施行した。二〇〇三年六月にベルギー、二〇〇五年六月にカナダとスペイン、二〇〇九年一月にノルウェー、二〇〇九年五月にスウェーデンも同じような法律を施行した。
二〇一〇年代には、イギリス、フランス、ドイツなど「同性婚法」を制定する国が一挙に増えて、二〇一八年一月時点で、同性婚を承認する国は二十四の国と地域に達している。
また、「同性婚」で問題視される「養子縁組権」や「遺産相続権」などの一部の権利を除いて、異性婚で認められる権利の大部分を同性者カップルに保障する「登録パートナーシップ制度」も含めると、約四十の国と地域に広がっている。
マスター 中心はヨーロッパですね。アメリカでは、どうなっているんですか?
名誉教授 アメリカ合衆国では、州によって「州法」が異なるから、ちょっと複雑でね。
まず二〇〇三年、マサチューセッツ州の最高裁判所が、「同性婚」を認めないのは「何人も法の下で等しく保護される」という州憲法に違反するという判決を下し、翌年からアメリカ合衆国内では初めて、州民の「同性婚」を認めるようになった。
二〇〇八年五月には、カリフォルニア州の最高裁判所も同じ理由によって「同性婚」を容認する判決を下した。アーノルド・シュワルツネッガー知事は、州民に限らず誰にでもオープンに「同性婚」を公証する方針を打ち出したため、「結婚証明書」を求める同性愛者が世界中からカリフォルニア州に集まって、大騒ぎになった。
それに対して、「神聖な結婚」は男女間にしか認められない、あるいは子孫繁栄に結びつかない「同性愛」そのものが「自然の摂理に反する」などと強く批判する見解も根強くてね。
とくにキリスト教やユダヤ教の保守派や伝統主義者を中心とするグループは、「結婚は男女間の結びつきである」という条項を改めて憲法に加筆すべきだとする百十万人以上の署名を集めて、新たな改憲法案をカリフォルニア州当局に提案した。
マスター つまり、「同性婚」に反対する法案ということですね。
名誉教授 そのとおり。この提案は、カリフォルニア州で「第八号提案(Proposition 8)」と呼ばれ、二〇〇八年十一月の大統領選挙と同時に住民投票で決議されることになった。
当時、ちょうど私はカリフォルニアに滞在していたんだが、双方の陣営が、さまざまな団体から莫大な資金援助を受けて、大掛かりな宣伝活動を行っていてね。
同性婚反対派は、教会関係者や保守派層から二千八百五十万ドルの寄付金を集めたと宣言した。一方、俳優のブラッド・ピットや映画監督のスティーブン・スピルバーグが、同性婚賛成派に各々十万ドルを寄付したことも話題になった。
カリフォルニア州のテレビでは、連日のように改憲法案に賛成投票か反対投票を求めるキャンペーンのコマーシャルが流されていたよ。
アイ どんなコマーシャルなんですか?
名誉教授 同性婚反対派のコマーシャルでは、小学生の女の子が家に帰って来て、『王様と王様』という題名の絵本を母親に見せる。そして、「今日学校で何を習ったと思う? 王子様と王子様が結婚するお話よ。私だってお姫様と結婚できるわね!」と母親に言うんだ。
驚いた表情の母親のアップに続いて、法律家が登場し、すでに同性婚の承認されているマサチューセッツ州では、実際に小学校二年生に男性と男性の結婚の話が教えられていると説明する。しかも、同性婚の学校教育は「法的」に擁護されているため、両親には教師に抗議する権利さえ与えられていないと述べて、視聴者の危機感を煽るわけだ。
マスター そうか! もし法的に「同性婚」を承認したら、子どもの絵本にしても、男性と女性だけではなくて、男性と男性、女性と女性のカップルの組み合わせも示さなければ、不公平になるというわけですね。
名誉教授 昔の論文の人称代名詞は“he”だったが、現代は“he or she”に変遷したのと同じようなものだね。
「同性婚」を承認する社会になれば、「夫婦」が“he and he”と“he and she”と“she and she”の三種類のカップルを指すことを示すために、新たな表記が求められるだろう。
最近の日本では、LGBTへの差別をなくそうと、「性別」を決めつける言動を避ける方針を職員に示している地方自治体もある。たとえば、二〇一八年四月、千葉市は、「夫」や「妻」ではなく「配偶者」や「パートナー」、「お父さん」や「お母さん」ではなく「保護者の方」か「ご家族の方」のように表現する指針を職員に示した。
ピアニスト あまり意識していませんでしたが、平等性を保つためには、いろいろな改革が必要なんですね……。
名誉教授 一方、同性婚賛成派のコマーシャルには、来年の夏に結婚するという若いカップルが登場する。二人は、共に愛し合っていると少し恥ずかしそうに言って、明るく笑うんだ。
しかし、そこで少し表情の曇った男性が、「もし四十年前だったら、僕らは『法的』に結婚できなかったんだ」と言う。なぜなら、彼は「白人」で彼女は「黒人」だから。
そして、現代社会で「同性婚」を禁止することは、かつて異人種や異民族間の結婚を禁止したのと同じ「差別」ではないかと主張するわけだよ。
マスター どちらの主張も、わかる気がしますね。
ただ、ボクは「同性愛」は自由だと思いますが、「同性婚」まで社会的に容認する必要があるのかどうか、ちょっと迷いますね。子どもの問題もあるし……。
同性愛のストーリーに基づく絵本
上記に登場する「同性愛のストーリーに基づく絵本」を数多く発表しているのが、イギリスの絵本作家オリー・パイク(Olly Pike)である。彼のアニメがYouTubeに幾つか提供されているので、紹介しよう。
マサチューセッツ州では、このようなタイプの絵本を小学校2年生の頃から読んでいるわけである。その子どもたちが大人になったとき、彼らは「同性愛」や「同性婚」について、どのような認識を抱いているだろうか?
「ビッグ・ゲイ・レインボー」演説
さて、ニュージーランド国会の議員モーリス・ウィリアムソン(Maurice Williamson)は、1951年生まれ。オークランド大学計算機科学科・物理学科を卒業後、12年間プログラマーとしてソフトウエア開発に携わった。その後、ニュージーランド国民党の国会議員となり、交通・通信・放送・地方自治・科学技術・建設・統計・国土情報などの大臣を務めた人物である。
2013年4月17日、ウィリアムソンは、同性婚を認めるための「2013年結婚(結婚の定義)改正法案」委員会において、「ビッグ・ゲイ・レインボー」と呼ばれる演説を行った。
この演説で、彼は、「同性婚」を承認する法案に対して、多くの人々が不安を抱くのは当然だと理解を示しながら、宗教界からの頑迷な反対意見には、皮肉や比喩でユーモラスに反論している。そして、彼の導いた結論は、もし法案が成立すれば「同性愛者にとってすばらしい日々が始まり、私たちにとってはこれまでと変わらない日々が続くだけだ」ということだった。
つまり、この法案は、非当事者にとっては何の変化ももたらさないが、当事者にはポジティブな「虹がかかる」わけだから、あえて反対する理由はないではないか、というプラグマティックな論法で訴えたわけである。結果的に社会に「プラス」をもたらす以上、なぜ反対するのか? 「同性婚」における「養子」の議論においても、実際に夫妻で3人の養子を育ててきたウィリアムソンの言葉には、重みがある。
彼の「ビッグ・ゲイ・レインボー」演説は、反対派からさえ「演説として非の打ちどころがない」と賞賛され、「歴史的名演説」と呼ばれるようになった。内容の是非は別として、このような演説のできる人物こそが、一国の国会議員として相応しいことは明らかだろう!
結論だけを声高に主張し、結論に至る推論過程を論理的に説明できず、相手の発言を遮って恫喝し、ヤジを飛ばしてばかりの幼稚な議論しかできない日本の多くの国会議員は、恥を知るべきではないだろうか!
読者は、「同性愛」と「同性婚」について、どのようにお考えだろうか? 日本でも法的に「同性婚」を承認すべきだろうか? その場合、社会的な制度や表現について、どのように配慮すればよいのだろうか?
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