連載:「新書こそが教養!」【第55回】『在宅医療の真実』
2020年10月1日より、「note光文社新書」で連載を開始した。その目的は、次のようなものである。
現在、毎月200冊以上の「新書」が発行されているが、玉石混交の「新刊」の中から、何を選べばよいのか? どれがおもしろいのか? どの新書を読めば、しっかりと自分の頭で考えて自力で判断するだけの「教養」が身に付くのか? 厳選に厳選を重ねて紹介していくつもりである。乞うご期待!
「より良く生きる」手段としての在宅医療
「在宅医療」と聞くと私の脳裏に浮かび上がるのが、竹田主子氏の笑顔である。竹田氏は、信州大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院・東京都老人医療センター・横浜総合病院などに勤務し、テキサス州ヒューストンのベイラー医科大学で3年間臨床研修医を務めた経験もある内科医である。
帰国後、医師の仕事を続けながら2人の子どもを育てていた2012年、42歳の竹田氏は、突然「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」を発症した。ALSは、身体中の運動神経を崩壊させ、やがて全身を動かなくさせる神経難病である。約1万人に1人の割合で発症し、知能や記憶と視聴覚は正常に機能する。天才物理学者スティーブン・ホーキングのように思索や研究を続けることはできる。
竹田氏は、まず歩行が困難になり、次第に手が動かなくなってカルテを書けなくなり、言語も不明瞭になっていった。2年後には寝たきりになり、呼吸もできなくなったため、気管切開して人工呼吸器を付けた。「大切な家族に迷惑をかけるくらいなら消えてしまいたい」と願うようになり、もし日本で積極的安楽死が認められていたら、サインしていたかもしれないという。
それから「死にたい」と4年間苦しみ続けた竹田氏を救ったのが、「在宅医療」だった。2016年、竹田氏は「重度訪問介護者」として認定され、「24時間介護サービス」を受けられるようになったのである! このサービスによって、平日の夕方以降と土日に介護をしていた家族の負担がなくなり、竹田氏の家族に対する「心的ストレス」は大幅に軽減された。人生に前向きになった竹田氏は、「視線入力装置」を導入して、眼球運動で文字入力できるパソコンを使い、現在では「医療コンサルタント」として大活躍している。
本書の著者・小豆畑丈夫氏は、1969年生まれ。日本大学医学部卒業後、同大学大学院医学研究科修了。日本大学医学部准教授・教授を経て、現在は医療法人社団青燈会小豆畑病院理事長・院長。専門は、救急医療・在宅医療。「日本在宅救急研究会」を発足させ、新しい地域医療の在り方を発信している。
さて、小豆畑氏は竹田氏の「自宅で生活できること」が「生きる意味」に直結していることを知って「頭をガツンと打たれるくらい強い衝撃」を受けたという。「生きるとは?」という哲学的な問いの答えが「普通の生活」だった!
本書で最も驚かされたのは、現代の医療の世界に独特の「階級意識」が存在することである。かつて救命救急センターにいた小豆畑氏は、容態が急変して運ばれてくる在宅医療の患者を診て入院が「いつもワンテンポ遅い」と批判的だった。ところが、彼自身が在宅医療に関わるようになると、病院の「救急医」から高圧的な態度で対応される「在宅医」の立場を実感できたという。
本書には、「特別養護老人ホーム」「介護老人保健施設」「介護医療院」の選択基準をはじめ、「重度訪問看護」の仕組み、在宅医療を受ける際の具体的な選択可能性について、多種多様な事例が詳細に解説されている。とくに最終章の「在宅医療と救急医療の連携はいかに可能か」という指摘は重要である!
本書のハイライト
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