連載:「新書こそが教養!」【第10回】『タコの知性』
2020年10月1日より、「note光文社新書」で連載を開始した。その目的は、次のようなものである。
現在、毎月200冊以上の「新書」が発行されているが、玉石混交の「新刊」の中から、何を選べばよいのか? どれがおもしろいのか? どの新書を読めば、しっかりと自分の頭で考えて自力で判断するだけの「教養」が身に付くのか? 厳選に厳選を重ねて紹介していくつもりである。乞うご期待!
タコの衝撃の知性
日本人は、タコをよく食べる。刺身に握り鮨、タコ酢にタコの天ぷらや唐揚げ、おでんの具にもなるし、子どもたちはタコ焼きが大好きだ。ゆでタコはサラダやマリネ、炒め料理にもマッチする。海外のアヒージョやパエリア、カラマリにも欠かせない。タコが「万能食材」と呼ばれる所以である。
本書の著者・池田譲氏は、1964年生まれ。北海道大学水産学部卒業後、同大学大学院水産学研究科博士課程修了。京都大学大学院研修員、理化学研究所研究員などを経て、現在は琉球大学理学部教授。多くの専門論文に加えて、著書に『イカの心を探る』(NHK出版)などがある。
さて、タコをイカのような軟体動物から際立たせている特徴といえば、その巨大な脳である。タコの体重に対する脳のサイズは、およそ高等脊椎動物(哺乳類や鳥類)と下等脊椎動物(両生類や爬虫類や魚類)の間にある。タコは、その重い脳を6本の腕で支えて「二足歩行」もできる。凄すぎるではないか。
一口に「タコ」といっても、250種が世界の海洋に分布し、その寿命は1~2年と非常に短い。それにもかかわらず、マダコにボールを提示し、そのボールを攻撃すると餌を与えるようにすると、そのマダコはボールを攻撃するようになる。つまり、イヌと同じレベルの「条件付け」が成立するのである。
さらに、イタリアのタコ研究者として知られるグラツィアーノ・フィオリトとピエトロ・スコットが行った実験では、マダコに赤いボールと白いボールを同時に見せて、赤いボールを攻撃すれば餌を与え、白いボールを攻撃すれば電気ショックを与える。この水槽を透明な仕切りで隔てて、その様子を他のマダコに見せる。そのマダコは、何が起こっているのかを熱心に観察する。
さて、実験を見ていたマダコに赤いボールと白いボールを見せると、なんとこのマダコは、赤いボールだけを攻撃するというのである。一般に、同種の他個体の行動を見て学ぶことを「観察学習」と呼ぶ。これは、チンパンジーでも難しいと言われる学習だが、マダコには、その能力があるというのだ! この研究結果は、1992年の『サイエンス』に掲載された。池田氏のグループは、さらに高度なタコの「鏡像自己認識」や「社会活動」に関する実験を現在進行形で実施し、本書には、その興味深い成果が詳しく解説されている。
本書で最も驚かされたのは、タコが「道具」を使うという事実である。2009年に発表された論文によれば、タコがホタテガイやハマグリのような二枚貝の殻を持ち歩いて、いろいろな局面で利用するケースが20例も報告されている。たとえばメジロダコは、人間が捨てた大きなココナッツの殻をソリのようにして持ち歩き、その中に自分の体を入れて隠れることもあるという。
タコが「二足歩行」して「道具」も使える以上、もし未来に人類が弱体化したら、海から上陸して「火」を使えるほどに進化するかもしれない。そこで思い浮かぶのは、H.G.ウェルズの『宇宙戦争』に登場する「火星人」である。この「タコ型知的生命体」は、脳が異常発達して巨大化する一方、消化器官は退化して、吸盤から動物の血液を直接摂取して栄養を取る。今はタコを食べている傲慢な人類が、未来にはタコの子孫に襲われるかもしれない(笑)!
本書のハイライト
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