連載:「視野を広げる新書」【第39回】『アメリカ大統領とは何か』
2023年10月1日より、「note光文社新書」で連載を開始した。その目的は、次のようなものである。
現在、毎月100冊以上の「新書」が発行されているが、玉石混交の「新刊」の中から、何を選べばよいのか? どれがおもしろいのか? どの新書を読めば、しっかりと自分の頭で考えて自力で判断するだけの教養が身に付くのか? 厳選に厳選を重ねて紹介していくつもりである。乞うご期待!
巨大国家アメリカの「大統領」
2024年11月5日、アメリカ合衆国第47代大統領選挙が行われる。民主党候補は副大統領のカマラ・ハリス、共和党候補は元大統領のドナルド・トランプである。アメリカの大統領選挙は、50州とコロンビア特別区の全有権者が予備選で538名の選挙人を選出し、その選挙人による決選投票で過半数270名以上の票を獲得した候補者が大統領に選ばれるという二段階の間接選挙になっている。実際には、すでに40州以上の党勢で勝敗がついているので、ミシガン州やペンシルベニア州といった7つの接戦州の勝敗で新大統領が決定することになる。
各州では、その州から選出される連邦議会の上下両院議員の合計数と同じ選挙人が選ばれるが、ここで注意しなければならないのは、48州とコロンビア特別区が、いわゆる「勝者独占方式」を採用していることである。この方式によれば、州の予備選挙の勝者が、その州のすべての選挙人の票を獲得する。たとえばフロリダ州の予備選挙の勝者は、同州の選挙人25名全員の票を獲得できる。
さて、アメリカ合衆国第43代大統領選挙は2000年11月7日に予備選が行われ、共和党のブッシュ候補が28州で勝って選挙人242名を獲得した。ところが、民主党のゴア候補も最大票田のカリフォルニア州をはじめとする18州で勝って、ブッシュ候補とまったく同数の選挙人242名を獲得したのである!
この歴史上類をみない大接戦の選挙戦の行方は、残る数州の中で、とくに大票田フロリダ州の選挙人25名をどちらが獲得するかにかかっていた。そして、フロリダ州予備選挙の開票結果によれば、ブッシュ候補が1,210票の僅差で勝ったと思われたが、その後、フロリダ州の海外居住者による投票の未集計分が2,300票も残っていることが判明した。そこでゴア陣営はフロリダ州の集計方法に対して訴訟を起こし、フロリダ州最高裁判所が手作業による再集計を命令するという異例の事態に進展した。その後1ヶ月以上の混迷を経て、ついに連邦最高裁判所がフロリダ州最高裁判所の裁定を破棄し、最終的にブッシュ候補は、わずか193票の僅差でフロリダ州を征して同州の選挙人25名の票を獲得し、過半数を1名上回る合計271名の選挙人票を獲得して新大統領に就任した。
ところが、予備選の有権者の投票総数1億38万票を見ると、実はゴア候補がブッシュ候補を約33万票も上回る逆転現象が生じていた。つまり、もしこれが国民の直接選挙だったら、ゴア新大統領が誕生していたわけである(選挙投票方式に内在する矛盾については、拙著『理性の限界』(講談社現代新書)を参照)。
本書は、アメリカ大統領の権限と連邦議会・行政部門との関係、50州が大きな権限を持つ連邦制、州裁判所と連邦最高裁判所の関係、選挙・世論・メディア、二大政党と利益集団、外交・安全保障政策、大統領のリーダーシップや嘘などから、そもそも「アメリカ大統領とは何か」をわかりやすく明快に解説する。
本書で最も驚かされたのは、カリフォルニア州だけでイギリスと同程度のGDPを有するというアメリカの経済規模である。つまり、仮にカリフォルニア州が合衆国から独立したら、GDP世界第6位のイギリスと同程度の国が誕生することになる。本書に掲げられた興味深いGDP比較図によれば、テキサス州はカナダ、ニューヨーク州は韓国、ミシガン州はオーストリア、オハイオ州はスイス、ケンタッキー州はニュージーランド、ミズーリ州はフィリピン、イリノイ州はオランダといった具合に、50州が世界の50カ国と同等のGDPを有している。
ちなみに東京都のGDPはオランダと同程度なので、イリノイ州のレベルになる。国土だけで日本の26倍にも達するアメリカ合衆国の巨大さには圧倒される。
本書のハイライト
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