![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/155327221/rectangle_large_type_2_e2c17a91a273b0e953b35fe9a57259a0.png?width=1200)
生まれ変わったら
何通りもの人生を生きた小学生時代だった。
小学4年生の寒い季節だったと思うが、ある日の放課後、近所に住む同級生の家で私は人生ゲームに出会った。
窓から西日が低く差していて、広げたボードゲームを朱色に染めていたのをよく覚えている。
要は双六と同じだが、紙幣が付くことで盤上の家の購入まで出来たりと、少しリアルにこれからの人生を体験しているように思えた。リアル過ぎないのが子どもの鋭い想像力を掻き立ててさらに良いのだ。
こうして、たった一度遊んだだけで私はそのボードゲームに魅せられてしまった。
詳しい経緯は覚えていないが、いつも何かにハマると一直線の私のことだから、きっと親に情熱をぶつけたのだろう。
記憶が一部飛ぶほどの凄まじい情熱を。
人生ゲームを無事に手に入れた私は、お正月にはすごろくの代わりに遊ぼうとねだり、家族が暇を持て余せば必ず誘った。
だが、最初は物珍しさで付き合ってくれていた家族もノリが悪くなっていく。
飽きた父とテレビゲームをしたいきょうだいは逃げ、残った母も
「銀行の役をするのが面倒で嫌…。」
と言う。
私は友達がとても少なかった。
それなのに家族全員に逃げられては、もう対象人数が2人〜8人の人生ゲームをすることが出来ない。
諦めるべき局面なのだろうが、むしろ断られてからの方が熱中して遊んだような気がする。
私が始めたのは、たったひとりでの人生ゲーム。
まず青2:ピンク2の計4本のプレイヤーピンを、1本ずつ4台の車に乗せてスタート地点に並べる。
そして決めたプレイヤーの順番で「ルーレットを回す」「マスを進める」「指示通りに紙幣を動かす」「ピンを車に乗せる」を4人分するのだ。
すべてひとりで。
面倒そうに思えるかもしれないが、私には最高に楽しい遊びだった。
通常の遊び方の時から私は毎回、色々な人生になりきって楽しんでいたのに、今度は4人分の人生を妄想しながら進められるようになったのだから。
弁護士になり、結婚し、マンションに住んで双子をもうけて転職。そしてタレントになる人生。
サラリーマンで結婚し、小さな家を買って女の子を授かり、教師に転職。最後は1着で「億万長者の家」にゴールする人生。
こんな様々な人生を辿りながら詳しく妄想する。
「弁護士さんなら仕事ではカチッとした服だよね。マンションに帰ったら服も動きもゆったりして過ごすのかな?」
「小さな家のこの辺りが、娘さんの部屋かな?」
というように。
人生ゲームをするときは、誰もが「億万長者の家」と一番の資産額を目指す。ルーレットを回す時は、少しでも給与の高い職に就けるよう祈るし、家は最後に資産として計算するので、購入する時は金額重視で決めるだろう。
だが正直、金額より気持ちでの選択も多かった。
私は「将来、子どもがほしい」という思いがこの頃から強かったので、転職マスが多いコースを選んだ方が良い場面でも、子ども誕生のマスが多いコースを選んだことが何度もある。
「金額重視の方が良いのに…馬鹿だな…。」
と思ったが、億万長者も資産額もただの成功者を示す分かりやすいワードだ。全員の人生の目的にはなれない。
私は人生ゲームで色々な人生を体験したけれど、職業以外に大した違いは無かった。序盤で「アルバイト」になってしまったとき以外は、子ども誕生マスがたくさんあるコースを選んで、購入する家も大抵同じだったのだ。
「生まれ変われたらもっと良い人生を送れるかも…。」
と思いながら読んでくれたあなた。自分の人生は、もう自分で選んでいると思いますよ。
いいなと思ったら応援しよう!
![茶山茶々子](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/154865664/profile_a9b05ef51fba54b7134505c7657cb091.jpg?width=600&crop=1:1,smart)