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雪村 悠馬
2024年11月10日 09:55
公園の桜の蕾も少しずつ色づき始め、町全体が春の訪れを待ち望んでいるようだった。ある日、いつものように喫茶店「風待ち亭」で珈琲を楽しんでいると、年配の男性が僕のテーブルに近づいてきた。彼は、僕にとってこの町での顔なじみの一人だった。「この町で春を迎えるのは二度目かい?」と彼が尋ねる。「ええ、昨年ここで過ごした春が忘れられなくて、また戻ってきました」彼は満足そうに頷くと、遠くを見つめるよう
2024年11月9日 21:08
その後も僕は、ほぼ毎日この喫茶店に通うようになった。冬の終わりを迎えた町は、まだ冷たい風が吹くものの、ところどころに雪解け水が流れ、小さな芽が顔を出し始めている。この季節の町には、少しずつ春が染み込んでいくような、独特の落ち着きが漂っていた。ある日、カウンターの奥にいつもの年配の男性が座っているのを見かけた。彼は、穏やかな表情で田島さんと話していたが、僕に気がつくと、こちらに軽く手を挙げて微笑
2024年11月9日 18:00
窓際の席で、僕はいつものようにゆっくりと珈琲を楽しんでいた。窓の外には、小樽運河沿いの雪が解け始めた石畳が見える。人々が行き交う様子をぼんやり眺めていると、店のドアが静かに開き、ひとりの年配の男性が入ってきた。小樽の寒さをしのぐような厚手のコートと毛糸の帽子を身に着け、落ち着いた様子でカウンターに腰を下ろした。「いつものでいいかい?」と店主の田島さんが声をかけると、男性は小さく頷いて微笑んだ。