【読書感想】銃・病原菌・鉄 上巻

【作品名】銃・病原菌・鉄 上
【作 者】ジャレド・ダイアモンド 訳 倉骨彰
【出版社】草思社
【発売日】2000年10月2日
【ジャンル】歴史


要約

 この地球には西側諸国のように世界を征服した国々もあれば、いまだに狩猟採集をして生活をしている集落もあります。この人類の発展の差を生み出した原因は、人々のおかれた環境であり、決して生物学的な優劣が原因ではありません。

 西側諸国が世界中に植民地をどんどん増やすことができた直接的な要因は、銃・病原菌・鉄です。彼らは鉄製の武具を身にまとい、馬を操ることができました。彼らが持ち込んだ天然痘やインフルエンザなどの病原菌により、免疫を持たない現地住民は次々に感染しました。コロンブスがアメリカ大陸に渡ってからわずか200年間で、2000万人もいた原住民はその95%が死亡してしまいます。死因の大半は病原菌によるものでした。

 なぜ彼らはいち早く銃・病原菌・鉄を手にすることができたのでしょうか。それはユーラシア大陸の地理条件が良かったからです。
 ユーラシア大陸には栽培に適した作物がより多く存在しました。食糧生産の発明により人口は増加。余った食料は人々の生活にゆとりを与えて、特権階級ができ、社会構造が高度化していきました。
 また、ユーラシア大陸は家畜に適した大型哺乳類動物が多く存在しました。家畜は土地を耕し、タンパク質を提供し、毛皮や骨は生活の役に立ちます。そして、動物由来の病原菌を人々にもたらしました
 ユーラシア大陸は他の大陸に比べて横に長いことも有利になりました。緯度が同じ場所は、似た気候になりやすい。肥沃な三日月地帯で始まった食糧生産や家畜は、より早い速度で大陸中に広がりました。

(下巻に続く)

覚えておきたい3つのポイント

 本書を読んで、心に残った言葉、これは勉強になるな、と思ったことを3つ紹介します。

【1】人間は環境に大きな影響を受ける
  本書の大筋はこの一文に集約されます。

【2】壮大な文明を築いたエジプトでさえ独自に食糧生産は始まらなかった
 
エジプトは壮大な古代文明であり、エジプト発祥のものは多いだろうと思っていました。ですが、栽培技術や種子は他の地域から伝来したものだと知りました。「オリジナル」ってもっとずっと深い場所にあるんだな、と衝撃を受けました。私の想像ですが、エジプト文明は周辺の様々な集落と交流があり、それら集落の文化の集合体だったのではないでしょうか。
 ところで外国人に人気の日本料理は寿司、天ぷら、ラーメンなどがありますが、どれも日本発祥ではありません。日本発祥ではないけど、日本っぽいものって料理だけではないと思います。じゃあ日本の「オリジナル」はどこにあるんでしょうか。私はそれが「神道」だと思うんです。

【3】人間が家畜化できる大型哺乳類は14種類しかいない
 
結構少ないですよね。この14種の内の大半は、紀元前2500年までには家畜化されていて、今現在(2000年時点)でも増えていないのは驚きです。

感想

 「なんで日本はこんな小さい島国なのに、経済大国になることができたのか」という疑問をたびたび目にすることがあります。その答えが、まさに「地理的な環境が良かった」からなのではないでしょうか。
  例えば、
  ・ユーラシア大陸に近い島国
  ・大陸から攻めにくい日本海
  ・過ごしやすい気候
  ・大きな文明(中国や肥沃な三日月地帯)と同じ緯度
  ・国土が狭くて、山が多くて、災害が多いから治安がいい
  ・山が多く孤立集落が多いので、狭い割には多様な文化がある
 決して日本人が生物学的に優れてるからではないんですね。

 アジア人はどちらかと言えば差別を受ける側の人種です。差別主義者に対して「君らはたまたま地理的な環境が良かったから発展したんだよ」と言っても、負け犬の遠吠えとしか思われないでしょう。理不尽だ……。
 私たちアジア人も、「環境が悪いんだから頑張っても意味なくね?」という言い訳に使えてしまう
 『銃・病原菌・鉄』の結論は、取り扱い注意ですね。
 

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