八月のスキー場
山の中に立っている。
眠っているリフトのケーブル沿いに斜面を登る。リフトの降り場から見下ろす。
わずか、数十メートル下にはロッジがあり、その先に人々の営みがある。それぞれの屋根の下では夕飯の支度をしているだろう。ここからは人の生活は見えても、聞こえないし、匂わない。赤い車がゆっくりとカーブを曲がっていく。街灯が灯り始める。
ゆっくりと日は沈んでいく。遠くで鳥が鳴いている。数匹。風が木の葉を揺らす。そういうとき、草原の草は不思議に音を立てない。
しばらくたちどまっているとアブが寄ってくる。なので少しずつ動きながらこれを書いている。
いつのまにか雲は晴れて、暗い水色の空が広がる。山間に見える雲はグレー、森は深い緑。黄色い花が辺りに咲く。
夏のスキー場は何か物憂げで、間違った場所に間違ったタイミングで立っている気がする。ここは植物と、森の動物たちの街だ。邪魔をするものとして、最低限の礼儀を持ってそこに立つ。風は柔らかく、剥き出しになった四肢を優しく冷やす。
そろそろ下りなければ、夜が来たら、わたしには何も見えなくなる。