小説家の連載 夫が絶倫過ぎて離婚しました 第1話
女性は妊娠中や産後の間は、ホルモンバランスの変化や体調不良で、性行為どころではない。出産は交通事故と同じダメージだと言い、産後一か月は性行為禁止だし、妊娠中も切迫流産や切迫早産の恐れがある場合は行為ができない。そうでなくとも体調不良の時は、性的なスキンシップをするどころか、そもそも妊娠したら性欲が無くなる女性も多い。
妊娠前とは同じようなレベルでの家事や仕事ができなくなるのだから、夫には家事のサポートを頼まざるを得ないし、夫を気遣う余裕も無くなる。
それなのに、夫がとんでもない絶倫だったら?女性の体の事情に、一切理解が無かったら?
果たして、一ミリも思いやりの無い夫に、妻は立ち向かえるのか?!
28歳の七海は、10歳年上の夫・大和とは結婚相談所で出会い、結婚した。七海はフランス語の翻訳家として、在宅で仕事をしていたので出会いが無く、周囲の勧めで、結婚相談所に入った。前に付き合っていた彼氏とはマッチングアプリで出会ったのだが、結婚まで行かなかったし、アプリで出会うのもめんどくさいので、確実に結婚できる相談所を使った。
相談所に入って紹介されたうちの一人が、大和だった。大和は10歳年上で、IT系企業で働くサラリーマン。イケメンではないが、色白で普通体型、身長も170cmあるし、そこまでおじさん臭さも無い。何回かデートをしたところ、穏やかで優しい性格だと思ったので、交際する事に決めた。お互い子供が欲しいと思っている事や、共働きで家事も分担する事などの価値観も一緒だったのも安心の材料だった。
この相談所のルールでは、交際していいなと思ったら、男性がプロポーズして婚約してから退会するのがルールだった。
フレンチレストランの個室にて、
「結婚してください」
と大和にプロポーズされた時、七海は幸せを感じたが、次の瞬間、とんでもない発言をされた。
「七海、結婚には条件があるんだ。俺の条件を聞いてほしい。この条件を守れないなら、結婚はできない」
「条件?」
「そうだ。これを守ってくれないなら、結婚する意味が無いんだ。俺は浮気するつもりは無いから」
「え、う、浮気?!」
どうして浮気が出てくるのか困惑していると、大和は大真面目な顔で続けた。
「俺は毎日行為をしたいんだ。結婚相談所の規定では男女の関係になれないから、プロポーズまで待っていた。でも結婚してから性の不一致になりたくないから、今聞かせて欲しい。俺は毎日したいし、一晩3回はしないと駄目だ。七海はどう思う?俺と毎日してくれる?」
とんでもない内容に、七海はびっくり仰天した。毎日?!1日3回?!
あまりの内容に七海は驚きつつも、聞き返した。
「え、ま、毎日何て無理よ!だって、生理の時はどうするの?できないよ?私、生理重い体質だから、毎回体調悪くなるし、それに妊娠したらできないよ?そういう時はどうするの?」
当然の疑問を口にしたら、大和は苦々しい顔になった。
「生理の時はしょうがない。俺は血が嫌いだし、無理矢理しようとは思わないよ。その代わり手や口でしてくれればいいから。妊娠は、別に病気じゃないんだし、できるよね?」
有無を言わさない口調に七海が唖然としていると、大和は、
「ほらほら、そんな顔をしない。俺が言いたいのは、夫婦なんだから、そういう行為をするのは当たり前。セックスレスは十分な離婚理由になるんだからね?俺の欲求に応じなくて離婚されるのは、七海の方なんだから、そこんとこわかってる?俺は七海のために言ってあげてるんだよ」
年上で口の立つ大和になんやかんやと言いくるめられ、結局、七海は婚約し相談所を退会する事になった。両家顔合わせの時、七海の両親の前では完璧な男を演じた大和に、両親は何も疑いのまなざしを抱かなかったが、唯一、3歳年上の兄の圭太だけには、
「七海、本当にあの男で大丈夫か?何かあったらいつでも頼れよ」
と耳打ちされた。
大和の父は寡黙なのか終始黙っていた。
大和の母は生後すぐ亡くなったとかで不在。大和の姉・42歳の優子も出ていたが、気まずそうな表情で、ほとんどしゃべらなかった。
結婚式はせず、ウェディングフォトのみ撮って、すぐに新婚生活が始まった。
が・・・・これが大きな間違いだったのだ。
宣言通り、大和は本当に絶倫だった。
毎晩3回するのは当たり前。4回する事もある。若い頃は今より輪をかけて絶倫で、少なくとも5回はしていたとか。最高で10回もした事があるらしい。これに毎晩付き合うのは相当大変だった。
七海は中学高校は女子校だったので、男性の性欲についてはよくわからない部分もあるが、それなりに交際経験もある。それでも、過去の元カレ達はここまで絶倫ではなかったし、七海が応じたくない時はその気持ちを尊重してくれていた。
今日はやりたくない、と言っても、
「俺、結婚前に絶倫だって話したよね?それでも結婚したのは七海でしょ?俺の欲求に応じないなら、セックスレスで離婚だよ?」
と言いくるめられてしまう。
ひたすら耐えるしか無かった。それでも、七海に性的なスキルが無い事に不満を抱かれたりする。自分の欲求を押し付けてばかりの夫に、七海は結婚してすぐ、結婚を後悔し始めた。
それに、やはり宣言通り、大和は七海が生理になっても何も労わってくれない。共働きなので担当分の家事はしてくれるが、
「在宅で仕事してるんだから、生理ぐらい何とかなるでしょ」
と言い、七海にいつも通り食事を作らせようとしたり、デリバリーを頼むと文句たらたらだった。
「生理程度で食事も作れないなんて、甘えてるよ」
七海は限界を感じ始めた。
「一生こんな生活が続くの?もう耐えられない!」
結婚して3か月しか経っていないのに、もう弁護士のサイトを見始めた頃、七海の体に異変が起きた。
何と、妊娠が発覚したのだ。
次回に続く