2.Thomas Ruff's Substrat
はじめに
こんにちは、この記事の趣旨はこちらでご覧ください。
第2回目の今回は、トーマス・ルフの「Substrat」シリーズを取り上げます。
リンクからこの作品が紹介されているサイトに飛べるので見てみてください。
ザ・抽象!って感じです。
トーマス・ルフは流石の閠も、名前と一部の作品は知っていました。
大学生時代に知って、とても好きな写真家の一人です。
でも、「Substrat」は初めて知ったので、どのような作品か楽しみです。
では早速みていきましょう!
作家紹介
1958年、トーマス・ルフは、ドイツ、ツェル・アム・ハルマースバッハに生まれました。
1977年から85年までデュッセルドルフ芸術アカデミーでベルント&ヒラ・ベッヒャー夫妻とゲルハルト・リヒターに師事したトーマス・ルフは、
初期に「Interieurs」というありふれた生活の空間としての室内をテーマとしたシリーズを制作。
1986年には、証明写真をひときわ大きく拡大したような「Porträts」シリーズを発表し、そのスケールの効果によって、写真というメディアと被写体への眼差しを変化させ、人々に大きな衝撃を与えました。
その後も精力的に活動を続け、「Häuser」、「Zeitungsfotos」、「Nächte」、「nudes」、「cassini」、「jpeg」など明確なテーマを設けた作品を発表し続けています。
彼は後半になるにつれ、写真とデジタルによる操作の関係に注目が移行していきます。ネット上にある画像をアプロプリエーションしたり、デジタル加工を施すようになります。
ついには、2003年を最後に、自らカメラのシャッターを切ることは無くなったそう。
作品紹介
そんな彼のアートの変遷で、特にデジタルによるマニピュレーションに踏み込んだのが「Substrat」シリーズでしょう。
「nudes」シリーズはネット上にある解像度の荒い匿名のポルノグラフィティを流用し、表面がスムーズになるまでデジタル加工を施したものでした。
「Substrat」シリーズでは、なんと日本の漫画やアニメから画像を採取して、元の画像として認識できなくなるまで、加工を重ねこのような原色が宇宙に漂うチリやガスのように混ざり合った、抽象的な画像を生成しているのです。
これは傑作か?
ここからは、ドミニクの批評文を読んで私が思ったことを少し書いてみたいと思います。
ドミニクは、なぜルフが漫画やアニメの画像を使ったのかについて、”画家がチューブから色を選ぶ行為と同じで、絵を描くために集めた画像ファイルから選択される色彩として漫画やアニメが適していたのだ”と述べています。
それは極めて絵画的な行為に近いのではないでしょうか。まさに、「Substrat」は抽象的な写真であり、絵画と言うこともできます。
ドイツ語である「Substrat」を日本語に直すと、"基盤"や"土台"といった意味になります。絵画がもともと、さまざまな色の組み合わせによってイメージを獲得するように、デジタル技術が発展した現代において、普段閠たちがデジタル越しに見る写真や画像のイメージもまた、色彩の組み合わせが土台にあることを示しているかのようです。
以下の引用は、一番日本語訳に苦しんだ箇所です。
"そのような表現の手続の側面は、多数の瞬間や時間を超える同一のプロトコルを適応した単一の改竄の変化をそれらに認めるよう私たちにそそのかす。それはまるで、研究所で再編成された現象の効果の視覚化された物質のようだ。"…?
文法的に正しく訳せているか全く自信がないですが、意訳してみると、この抽象的な画像は、デジタル的な操作による(漫画やアニメの)イメージの解体によって生成されています。その加工のプロトコルの中には、あるイメージのさまざまな瞬間や時間の変化が確かに存在していたことを、作品は視覚的に鑑賞者に対して訴えかけてくるということでしょう。
いかがでしたでしょうか?
ルフの作品は、ニュートラルなイメージの中に"何か"あると鑑賞者に予感させるようなものが非常に多いです。これは芸術の神秘的な側面を最もよく引き出している言えるのではないでしょうか。
それではまた次回
参照元
この連載は以下の本を参照します。
Dominique Moulon, "Masterpieces of the 21st Century - art in the digital age",Translated by Geoffrey Frinch, 2021
トーマス・ルフについて見易くまとめられている日本のサイトを参照し、作品部分にハイパーリンクを添付した箇所が幾つかあります。
http://thomasruff.jp, 2022/6/6閲覧
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