-小暑- no.19 気持ちが急くときはうすく野菜を切る|リボンズッキーニのお味噌汁&茄子の揚げ浸し
【食べる】二十四節気通信。
ここ最近、なんだか忙しくて予定が目一杯詰まっているので、
ちょっと気を抜くとすぐに「わたしは忙しいんです!」モードに入って、さらに自分をあおってしまう。
焦りや忙しさが心を占拠し始めた時は、それは往々にして家族への態度になって出てくるので、家族に対して塩対応多めだな。と思ったときは黄色信号。
要注意なのである。
さて、今日の昼ごはんはリボンズッキーニのお味噌汁と茄子の揚げ浸し。
先週の日曜日のこと。
ちゃちゃっと昼ごはんを作って、疲れたから午後はちょっと一人になる時間をもらおうと思い、台所で一人集中モードに入る。
こういう時、話しかけるとロクなことがないと察している娘は、そそくさとひとり寝室に身を寄せ、お気に入りのマイ布団に包まってくつろいでいる。
時刻は11時。
今朝は5時半に起きて、はしゃいで過ごしていたので疲れたのもあるのだろう。
スライサーでズッキーニを、包丁でジャガイモをうすく切っていく。
こうして野菜をうすく切っていると、大学生の時イタリアンのホールでアルバイトをしていた頃を思い出す。メニューは奇をてらったものではなく、定番のものを毎年ちょっとずつ改良を加えながらきちんとしたものを出し続けるという、本当に良いお店だった。
決して大きくはない店内はいつも繁盛していて、30年以上もの間地元のお客さんに愛されていた。
ミシュランの掲載は拒否。テレビの取材は受けない。
メディアの影響による一時的な人気ないて要らない。それより、地元のいつも通ってきてくれる人が美味しいって言い続けてくれる方がいい。そういうスタンスでいたので、30年以上地元から愛され続けているのも納得だった。
お客さんが引いていく時間にお皿を拭きながらここから「花嫁修行(男子含む)」をして巣立っていたたくさんの人のエピソードを聞くのが好きだった。
そうそう、野菜をうすく切るという話をしていたのでした。
わたしはデザートの紅茶に添えるレモンの薄切りが苦手で、よくマスターから怒られていた。守りに入ると「厚すぎるよ。それじゃ品がない」と言われ、おっかなびっくり、できるだけうすく切ろうとすると綺麗な円形にならずまた怒られる。
デザートのドリンクを聞くとき「ホットティーで」とお願いされた場合、「ミルクかレモン、お砂糖はどうなさいますか?」と聞かなくてはならないのだけど(常連さんは別)、そんな時は思わず心の中でこう願うのだ。
-神様仏様、どうかどうかストレートかミルクティでお願いいたします。
しかしそんな邪心を抱えた時に限ってさらりと「あ、レモンで」と言われてしまうものだった。だからいつでもレモンティーが来る前提で動いているようにすると変に心拍数を上げなくて済むのだ。
しかしながら、何度やってもレモンがうまく切れない。あまりにできないので、アルバイトの帰り道にスーパーでレモンを買って家で練習していたっけ。
それでも結局上手にはならなかったなぁ・・なんてことを思い出して、思わずほくそ笑んでしまう。ある程度時間が経ったからなのでしょう。あのときの必死すぎる自分が「なんだか可愛いやつだな」と最近では思えるようになってきた。
たくさん怒られたけれど、同時にたくさんのことを教わった。
今ふと思い出すのは「忙しくなってきた時に忙しそうに振る舞わないために、いつも淡々とやるべきことをやっていなさい」というとてもシンプルな言葉だ。
わたしは忙しくなるとだいたいテンパっていたので、きっと何度も言われていたのだと思う。
混んでいたって混んでいなくたって、お客さんが一人だろうと満席だろうと関係なく、いつもやっていることを大事にすること。きちんとやる。
その上で、その時々に変則的に発生するあらゆるものの優先順位を見極めてフレキシブルに対応していく。そうすれば忙しい時に忙しくならないんだよ。そんなことだったと思う。
あの頃は、うーん、頭では理解できるけど実際は・・という状態だったけれど、今は生活をする中でなんとなく腑に落ちてきた。
リボンズッキーニとジャガイモのお味噌汁が出来上がり。あとは餃子を焼いて・・と思ったら、寝室で大きい人と小さい人の寝息が聞こえる。
あらら。と思って、おかずをもう一品作ることにした。
茄子の揚げ浸し。今日はひたすらひたすらうすく切りたい気分で、野菜を薄く切ろうとすると、先ほどまで台風前の海のようだった心が、自然と静けさを取り戻す。
素揚げした茄子を南蛮酢と三倍酢につけて、上から茗荷をねぎ(昨日の夕飯のあまり)、七味ををぱらり。そしてごま油をひとたらし。
ダイニングテーブルに持っていくと、良い香りが広がった。
さすがに起きるでしょう。
そう思って寝室をのぞくが、先ほどよりさらに深い眠りに落ちている二人。
「起きたら餃子を焼いて食べてね。おかずとお味噌汁はあります」
と大きい人にメッセージをして、ノートとペンをカバンにつめて、出かけたある日曜日の午後。