サウナ小説 ~サウナ音頭~ 第10話 アイデア(ウェルビー福岡)
私は朝に弱い。
目は覚めるのだがどうしても動けない。
ボンドが敷かれたベッドで寝ていたかと思うほど、自分とベッドの設置面積が減らない。
そんな心の弱さを溶かすために有効な方法はただ1つ。心踊る予定を朝に入れるしかないのだ。
九州サウナ旅行3日目。そんな予定はサウナしかあるめえよ。
本日は2サウナ回る予定。その1施設目こそが、
ウェルビー福岡
サウナーなら誰もが知るウェルビー系列。福岡を代表するサウナ施設だ。
鼻先にニンジンをぶら下げられた馬の如く、私はベッドから出た。
ここを訪れることを想定し、徒歩1分のホテルに前泊済。時刻はAM9:30。既に身も心も丸裸である。
浴室に一歩進むと目に入るのは、怪しげな扉たち。前方に2つ、左右に1つずつあり、これら全てがサウナへ続いている。うちはサウナ1本ですよ、そう言わんばかりのレイアウトだ。
ちなみにウェルビー福岡は2,3年ほど前に大改修を行い、お風呂がなくなったらしい。ええぇ!!
賛否両論あったらしいが、それでこそ人気施設。
個人的にはサウナがあればそれでいい。
期待に胸を膨らませながら左に曲がり、まずはシャワーで身体を清める。平日昼だがそれなりに人がいる。流石の人気ぶりだ。
さて湯通しをするためにお風呂、はないので早速サウナに向かう。使い放題のサウナパンツを履くと、まずは右手にあった扉、フィンランドサウナへ。
1歩中に入ると、神秘的な雰囲気に息を呑んだ。
暗めの室内。そんな暗がりにぼんやりと浮かぶオレンジ色の暖かい光。自ずと焚き火を連想させる。
よくよく周りを見渡してみると、天井には明かりがほぼない。では光はどこからきているかというと…サウナベンチからだ。木材たちは隙間ができるように組まれており、その隙間から暖かい光が漏れている。
あくまで照らす目的をもつ明かりではなく、たまたま漏れていた光。そんなイメージだろうか。唯一無二の雰囲気を作り出している。
さて肝心のサウナはというと、しっかりと汗をかける本格的なフィンランド式だ。温度計は90℃、湿度計は25%を指している。
この絶妙な温度と湿度が、優しく、しかししっかりと、着実に身体を温めていく。
次第に額から滲み出る汗。その汗はやがて大粒となり、頬を滑り顎から滴り落ちる。自由落下を始めた汗は急加速、即座に胡座をかいた太ももに着地。自分が汗をかいていることに気付く。そうしてタオルで顔を拭うが、また同じことが起きる。そんな事を繰り返しているとあっという間に10分が経過。ゆっくりと腰を持ち上げ、水風呂へと向かった。
サウナを出て右側に、スロープのついた水風呂がある。温度計はなんと5℃…!
池袋かるまるのサンダートルネードを下回る、経験上最低温度の水風呂だ。
恐る恐るゆっくりと足を踏み入れ…てはいけない。そうすると、既に入った箇所だけがどんどん冷やされてしまうからだ。この手の水風呂は思いっきり入り、嵐のように一瞬で去っていくべし。
意を決して全身を水面の下に沈める。その刹那、身体に走る当然の衝撃。全身が痺れるような感覚に襲われること約10秒、完全に身体が動かなくなる前に…命からがら地上に逃げ出した。
水風呂から出た後は、洗い場を通り過ぎてその横にある休憩スペースへ。
自然がテーマになっているのだろうか、壁にはヴィヒタなどが飾られている。上の照明にも木の葉が描かれており、まるで森の中にいるかのような雰囲気を演出。椅子が5脚ほど、フルフラットチェアが2つほどあり、心ゆくまで休息することができる。
空いていた椅子に水をかけようとして周りを見渡すと、水かけ用の柄杓を発見。よくある風呂桶ではなくロウリュに使うような柄杓である点に、細やかな遊び心を感じる。
柄杓で椅子をロウリュして、腰をどかっと落ち着ける。すると身体の血液は待ってましたとばかりに騒ぎ出す。朝からととのう事への小さな背徳感とともに時の流れをじっくりと堪能した。
お次は浴室入口から見て正面のサウナ室へ。扉は2つあり、片方はサウナ、片方は水風呂へと繋がる。
え、どういうこと?
実はこのサウナ、サウナ室の中に水風呂があるのだ…。
サウナに通えば通うほど、サウナを学べば学ぶほど、否が応でも身につく常識。
その常識を根底から覆すトンデモサウナである。
戸惑いつつもサウナ室へ。
一歩入るとそこは異空間。左手にはサウナストーン。右手には水風呂。この光景はなかなか見ることができない。
サウナ室内は約80℃。程よい熱さの室内に、白樺だろうか?自然の香りがほのかに漂っていて落ち着く。
さらにセルフロウリュ可能と言わんばかりの木製柄杓。当然ロウリュを繰り返す。
水をかける度に唸る?呻く?サウナストーン。
それにより生まれる蒸気は次第に室内を埋め尽くし、体感温度はぐんぐんぐん。しっかり10分ほど堪能した。
その後はドアを開けることなく、そのまま室内の水風呂へ。温度は20℃ほどだろうか。優しい冷たさが身体の火照りをじっくりと取り除いていく。
顔は熱く、身体は冷たい。なぞなぞに出てきそうな表現だが、確かにそうなのだ。ここでしか味わえない不思議な感覚。存分に満喫し、その後はフルフラットチェアでととのった。
水分補給をするために、休憩スペースから脱衣所へと向かう。その道中で、和風テイストの窓らしきものを発見。よく目を近づけてみるとどうやら窓ではない。中には部屋があり、からふろ、と呼ぶらしい。
どうやら1人用のスチームサウナのようだ。そして入口の木札には"空"の文字。
今がチャンス!足早に水分補給を済ませ、私はからふろに急行した。
入口の暖簾をくぐり、襖のような戸を開ける。壁の真ん中に襖が嵌め込まれているような造りのため、頭から突っ込んで身を乗り出すようにして中に入る。人1人が通れるくらいのスペースに何とか身体を転がし込み、襖を閉める。
…何も見えない。真っ暗だ。ただ蒸気が場を支配していることだけが分かる。外界の音も遮断されているようだ。視覚と聴覚のない世界。しかし不思議と心が安らいでいくのを感じる。
次第に目が慣れてくると、部屋が畳2帖くらいのスペースであることが分かった。天井は低く、胡座をかくか横になるかで楽しむスタイルのようだ。
室内でセルフロウリュもできるようになっており、完全個室で蒸気を堪能。
これがからふろ…また粋なものを…。
横になりながら、10分ほど完全個室を味わった。
さて、最終セット。ここで私は、頭の中で思い描いた4コンボを決めたいと目論んでいた。
企みを脳に仕舞い込み、いざフィンランドサウナへ。
まずは1コンボ目、最上段確保…成功。
ウェルビー福岡で最も熱い場所でじっくりと蒸される。
汗は大きな玉となり身体中を流れ続ける。10分弱しっかりと身体を温め、満を持して外へ出た。
次に私が向かったのは、水風呂ではない。サウナ室を出て正面にある、残り1つの未踏の扉。
備えられたクロックスを履いて室内へ。
運良く空いていた1人用のスペース。
これが2コンボ目、アイスサウナ…成功。
巨大な冷凍庫に入ったかのような感覚。壁には北欧地方を想起させる動物の毛皮。触ってみるとめちゃバリカタ。完全に凍っている。
ここで身体をしっかりと冷やし、次に向かったのはサウナ室内の弱水風呂。これが3コンボ目…成功。
今度は優しい温度で身体をじんわりと冷却していく…!
そして最後の4コンボ目、これが決まるかは休憩スペースを覗いた瞬間に決まる…。
…成功!一席だけ空いていたフルフラットチェア!
これこそが4コンボ目、寝そべりととのい。
急いでチェアをロウリュし、背中全体を無責任に預ける。
何の障害もなく駆け回る血液たち、脳に運ばれてくる酸素、次第に遠のいていく意識…。
渾身の4連弾を黒閃よろしく決めた私は、バッチリととのい爽快な気分になった。虎杖もこんな気分だったのだろうか。(違う)
さて、その後は少し時間があったので館内を散策。
そこである張り紙を発見。
九州ジモサウナデー。受付にジモサウナデーの特設HPの画面を提示することで、イオンウォーター500mlがもらえるとのこと!
地元ではないけどサウナにはお金落としてるし…いいよね?
受付でイオンウォーターをいただき、フリースペースで歓喜の大休憩をした。
カフェのようにオシャレなスペース。サウナストーブを模した机がかわいい。
調子に乗りドイツ語のサウナ雑誌を手に取ってみる。案の定何も分からないので、写真だけ眺めて30秒で読破。
そんなことをしながら、暫し至福の時を過ごした。
退館した後は、福岡で有名な水炊き屋、華味鳥へ。
ランチで気軽に水炊きを楽しめるとのことで優しくも深い味わいを堪能いたしました…。
さて本日のサウナはもう1件。そこに向かうべく博多駅へ。ウェルビー福岡で十分にととのったにもかかわらず、午後もサウナ。こんな贅沢があるのだろうか。
しかし旅行とはちょびっと贅沢をするもの。楽しまねば損!
そんな脳内会話を繰り広げながら、私は改札に入った。
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