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サウナ小説 ~サウナ音頭~ 第9話 栄光の架橋(湯らっくす)

旅先でご当地のものを食べることにほんの少し抵抗がある。
せっかく○○まで来たのだから。
ここの××は有名だから。
そんな合理性に自分の意思を預けることへの漠然とした違和感。
あくまでその時の気分で、自分が食べたいものを食べたい量食べる。それが1番美味しいと考えていたので、札幌で醤油ラーメンを食べたこともあった。
しかしここでは、絶対にこれを食べる、と心に決めていたものがあった。

湯らっくす の 麻婆豆腐定食

サ道のドラマで泰造さんが食べていたものである。
せっかく熊本まで来たのだから。
ここの麻婆豆腐は有名だから。
そんなことを考えながら、1人のミーハーが赤い建物に吸い込まれた。

まず入浴価格に驚く。平日はフリーコースで1300円。東京ではあり得ない価格。土地の違いもあるだろうが、きっとそれだけではない企業努力が見え隠れ。
受付を済ませて大きな階段を上がる。ロッカー場所が分からずうろうろしていると、1人のおじちゃんが場所を教えてくれた。
ありがとうございます!きっと常連なんだろうな。

ロッカーで館内着に着替え、脱衣所に向かう。
脱衣所に向かう途中で、タオルが積まれた棚があり、そこから必要数のタオルを先に持っていくスタイル。バスタオルはなく、全てハンドタオルで完結させている模様。悩んだ末に4枚持って脱衣所へ。
脱衣所は2階の休憩処を使うかどうかで別部屋に分かれているようだ。アカスリの予約は、備え付けられている内線電話から予約できるらしい。

さあいざ浴室へ。
第一印象…なんか開放的!!
洗い場の数が多く天井も高いため、室内ではあるが開放感がある。
さらに壁の上方には窓。
時刻は午前11時。ありったけの日光が洗い場へと降り注ぐ。
身体を洗っているだけですでに良い気分だ。
その後は大きな天然温泉へ。こちらもなかなか広く、開放感を損なわない。湯加減も丁度良く、いつまでもいられそう…。
しかし私の目的は周知の事実サウナ
お風呂からゆっくりと身体を持ち上げ、いざサウナへ。

1セット目は、メインの本格サウナ。
1歩足を踏み入れると、横に長〜い3段ベンチがお出迎え。30人ほど入りそうな大容量サウナだ。
しかし決して熱が逃げることはない。
最上段に腰を下ろすと、確かな熱と確かな湿度がこんにちは。ただただこの空間に身を預け、じっくりと身体を温める。
気づくと早鐘のように鼓動する心臓。その早鐘を合図に全身から汗が噴き出す。
8分ほどでリタイアし、そのまま対面にある水風呂へと向かった。

水風呂は、あまりにも有名な最深部171cm。
吊り下げられている縄を握りしめないと全身がすっぽり埋まってしまう。
温度は15,6℃くらいらしいが、その深さゆえ下半身はより冷たく感じる。
さらに、頭上から滝のように水が落ちてくるので逃げ場ない。全身くまなく冷やされざるを得ないことは不可能という文字は湯らっくすの辞書にはない。

しっかり冷やされた身体を連れて、すぐそばの休憩スペースへ。ととのい椅子が15脚ほどあり、ととのわせる気満々の構えだ。すぐ隣は外の露天風呂スペース。風がほんのりと入ってきて気持ちいい。
しかしそのためだろうか、床がやや冷えている、、ことを見越したかのように!
足下に細長い木材が敷かれていた。ここに足を預けることで、足先の冷えを回避できる!細かいことに配慮された工夫…好き。(告白)

さて、お次はメディテーションサウナ。
室内は暗め。山小屋に来たのかと錯覚させる雰囲気だ。さらに心地良い音楽が流れていて、自然と心が鎮まっていく。そして暗がりの中、室内中央で一筋の光が当たるのはサウナストーブ。ほんのりヴィヒタ?が香る天然水が桶に入っており、セルフロウリュ可能。
他に人がいなかったので、何度もロウリュして体感温度は急上昇。そんな空間でひっそりと目を閉じ、ただただ自分と向き合う10分。
質の良い汗をしっかりとかくことができた。

再び171cm水風呂を経て、お次は外気浴へ。
露天風呂スペースにととのい椅子が2つあり、ちょうど空いていた。
露天風呂周りの岩にちょうど足を置くことができたので、足を伸ばした状態でじっくりと休む。
3月の熊本はそれなりに暖かい。全裸で春の訪れを感じるのは初めてだ。しっかりと休憩し、そのまま露天風呂へ。身体は温かくも、時折顔にあたる風が気持ちいい…ずっといられそう。しかし次のサウナが待っている。
露天風呂に住民票を移したい気持ちを抑え、仕方なく風呂を上がった。

さて3セット目は塩蒸サウナ。
スチーム塩サウナだ。しっかりと蒸気が籠っていて、入った瞬間は何も見えなかった。
何とか席につき、目が慣れてくると中央に塩が。
これを手に取って身体中に擦り込…みたいところだが、今回は遠慮した。下記背景。
持参した電動髭剃りが動かない

慣れないカミソリ使用の結果、ちょい痛ミス

サウナには影響ないが、文字通り傷口に塩を塗りかねない

それでも身体は温まる。スチームサウナにしてはかなりの高温に感じる。10分後には、身体が汗で覆われていた。
しっかりと身体が温まったので、例の如く身体を水に埋めるために外に出た。

私が水風呂に入る時は、常に頭に滝が降っていた。この水風呂にはマッドマックスボタンというボタンがあり、これを押すと頭に水が降ってくると聞いていたのだが、私の前に使った人が毎回押していたのだろう。
といいつつも、せっかく熊本まで来たのだから。
記念に押すだけ押しておこうと思い、赤いボタンを人差し指で奥に動かす。
その刹那、大量の水が頭に降りかかってきた。
え、ずっと降ってる滝とは別で水が降ってくるの?
予想外の大洪水。あまりの水量に呼吸が妨げられる。
後から調べたところ250L/分の水が襲いかかってきていたようだ。マッドマックスの名に恥じない迫力。ここでしか味わえない最高の体験であった。

そうこうしている間に、短針は1を指そうとしていた。最後のセットは、再び本格サウナ。
今回は13時はのアウフグース付きだ。
ほぼ満員の室内に店員さん入ってきた。
タオル片手に扉を閉めると、自ずと全員の背筋が少し伸びる。
拍手とともに、アウフグースがスタート。
ここでは音楽を流し、その間アウフグースをするというシステムらしい。
ヒーリングミュージックでも流れてくるのかな。
川のせせらぎとか、小鳥のさえずりとか。
そんな予想とは裏腹に、しっかりと言葉が耳に入ってきた。
誰にも〜見せない〜涙ぁ〜が、あった〜♪

めちゃくちゃ栄光の架橋…!
思わず吹き出しそうになる。こんなんみんな笑うやろ…!と思ったが、周囲はいたって真剣に熱波を待っている。どうやら私の経験不足のようだ。
広い室内をふんだんに使い、店員さんがタオルパフォーマンスを始める。タオルやうちわで扇いでもらうアウフグースは経験ありだが、がっつりタオルをクルクルさせる系は初めてだ。
凄いなこれ。タオルが風を切るたびに、予想外の角度とタイミングで熱が飛んでくる。栄光の架橋も相まって、さながら競技を観ているかのようだ。
しかし1番のサビが終わる頃にはそんな余裕はなくなり、ただただ熱波にじっと堪え続けることになった。
身体は全身汗まみれ。汗で濡れていない箇所を探す方が難しい。それでもただただ熱を感じて居座る。徐々にそれ自体も心地良くなってくる…でも熱い。
大サビが終わる頃には、早く歌い切れ、でもまだ終わらないでくれ、という不思議な気持ちになっていた。
私の気持ちとは無関係に、ゆずは必ず歌い終わる。
拍手とともにアウフグース終了、最高の体験再びであった。
その後は水風呂と外気浴を堪能し、浴室を後にした。ちなみにタオルは4枚では足りなかった。毎回水風呂でびしょびしょになってしまったからだ。

それはそうとして、ついに念願の時間。
麻婆豆腐タイム。
サウナスパ健康アドバイザー特典のりんごジュースとともに、それはやって来た。

ついに辿り着いたサ道飯。丁寧にレンゲを口に運ぶ。
辛旨…辛っ!
痺れるような辛さと深いコク、肉の旨みが舌の上で同居し、快感へと変換されて脳へ伝達される。
本能的に白飯をかきこむ。美味すぎる〜!
2口目も3口目も辛い、旨い。
次第に顔から汗が滲み出し、メガネとの摩擦係数を下げていく。
サウナ後に汗をかくという貴重な経験、大満足でした。

その後は呪術廻戦の最新巻を読みながら大休憩。のつもりがうたた寝をかまして結局読み切れず。
真希と憲紀の運命を見届けることなく、湯らっくすを後にした。

九州で圧倒的存在感を放つ、湯らっくす。
その噂に違わぬ素晴らしいサウナだった。次にいつ来れるかは分からないが、いつか熊本に来た時は必ずまたお邪魔したい。
そう心に決めて、私は電車に乗り込んだ。


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