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サウナ小説 ~サウナ音頭~ 第5話 名は体を表せる(精神と時の部屋)

彼の姿が見えない。
それでも外は明るいので、いる事は確かだ。
曇天の午後4時。私はある部屋を探していた。
どの物件サイトにも載っていないだろうその部屋の名は、

精神と時の部屋

まさか実在するとは。1番驚いているのは鳥山明先生だろう。
なんでも静岡初の個室サウナだそう。
一応会員制だが、非会員の単発利用も可能。
そしてキャンペーンとしてモニター利用ができ、驚くべきことに無料でサウナ体験が可能だ。(2/13時点)

ビルに着くと、エレベーターで8階へ上がる。
到着したのは、マンション部屋のような玄関。
ここで合ってるのか…?
不安になったが、表札にはっきりとした明朝体で、”精神と時の部屋”と書かれている。
人差し指に自ずと力が入りながらも、私はおそるおそるインターホンを鳴らした。

出迎えてくれたのはオーナー。(多分)
自身もサウナ好きで、個室サウナという文化を静岡に広めたい!と考えているらしい。
簡単に施設の説明を受けた。
私は90分の単発利用だが、会員の方は自由に出入りができるらしい。しかも24時間使い放題。凄すぎる…。
9,800円/月で使い放題の個室サウナ。若干高いように思えるが、
今の家賃に+1万円でサウナがつく、と考えたら全然アリだよな…静岡の人をこれほど羨ましいと思ったことはない。
ちなみに会員登録をすることで、施設内には顔認証で入ることができるそうだ。
また施設入口の下駄箱は限定公開でリアルタイム配信されており、混雑度が分かる仕組み。深夜早朝利用をスタッフ無人で可能にするための計算がし尽くされている。

説明が終わると、ここから90分の自由時間。
早速シャワーを浴びてから、さっそく個室サウナへ。
個室は4つあり、空いてる部屋を自由に使うことができる。
入口横には桶と柄杓。個室サウナの醍醐味ともいえるセルフロウリュが可能だ。厳選されたアロマオイルを自由に使用できる。個人的には、桶と柄杓に金属が一切使われていない点も好印象。高温となるサウナ室内で事故が起こらないように、細心の注意が払われている。
そして嬉しいことに、入口横のつまみで室内温度を調整可能。80〜100℃の間で自分好みのサウナを作り上げることができる。
自分だけのサウナ部屋を賃貸で借りているような感覚。
<写真>

明るい橙の室内は、実家のような暖かさを想起させる。オレンジ色のタオルがベンチには敷かれているが、私はサウナパンツを履いて胡坐をかく姿勢に。
そして早速、セルフロウリュをかます。ユーカリのアロマ水は次第に蒸気へと変わり、私の全身に突き刺さる。1人分の個室であるため、蒸気が一瞬で部屋中に広がる。ついロウリュし過ぎになるので注意が必要だ。
ちなみにこのロウリュ装置自体も面白い。
室内のサウナストーブ全体が檻で囲まれていて、水の注ぎ口だけが檻から外に出ている形。ここにアロマ水を入れることにより、ゆっくりとサウナストーンまで辿り着くという仕組みだ。
また、この檻自体も触れても熱くないように特殊な表面加工が施されている。安全面まで計算し尽くされた、究極の個室。それが精神と時の部屋だ。
<写真>

10分の砂時計が静かに終わりを告げる。お次は冷水シャワーへ。
ここには水風呂がなく、代わりに5℃の冷水シャワーが備えられている。
水風呂がないのはいかがなものかと思いつつも、シャワーを浴びてみると、その懸念は覆された。
何だこれ、めちゃくちゃ気持ちいい、、!
頭から被る冷水の爽快感は、筆舌に尽くしがたい。
サウナは、身体の上部のほうが温まりやすい。
だから頭から冷やさないとね。
そんな持論さえ生まれる勢いだ。
そして水風呂とは違いシャワーであるため、5℃であっても数秒で限界となることはない。心ゆくまでしっかりと身体を冷却することができる。

冷水シャワーの洗礼を浴びた後は、すぐ隣の休憩スペースへ。
ここでは用意されたサウナポンチョを着るのがルール。
初めての経験だが、これがとても心地いい。
肌触りが良く、身体が過剰に冷えるのも防ぐことができる。
実在する羽衣、とでも言おうか。
この羽衣に身を包みながら、インフィニティチェアを少し倒して背中を預ける。
次第に身体中の血液が、頭から足先まで所狭しと駆け回る。
視界には焚火の映像。ゆらゆらと燃える光景が雰囲気を盛り上げる。
そして細長い窓から入る風。そのそよ風に吹かれるたびに、都会の喧騒を忘れていく。
そして訪れる幸福の時。。。
午前中のしきじに負けないくらい、しっかりとととのった。
<写真>

温度やアロマを変えながら、サウナ→冷水シャワー→休憩 を3セット堪能。あっという間の90分、貴重な体験であった。
唯一のミスは、クールサウナを体験し損ねたこと。
冷蔵庫のような室内でサーキュレーターが備えられている。
冷水シャワー代わりに使用することで、
身体に溜め込んだ熱を冷たい風で吹き飛ばすことができる。
おそらくサウナセンターのペンギンルームに近いものだろう。
残り5分でこれに気づいた時の絶望は計り知れなかった、、次に静岡に来た時の楽しみとして取っておくこととする。

モニター利用だったため、利用後の感想などをオーナーさんと軽く話す。
全てが良すぎて、逆に何を伝えるべきか言葉が出なかった。。とにかくすべてのこだわりがすごいです!とだけお伝えした。
オーナーさんは、とにかく個室サウナという文化を広めたいとおっしゃっていた。この文章が、少しでもその一助になれば幸いだ。

大満足の中、その部屋を出る。
彼の姿が見えない。
気づくと外は暗くなっていた。知らぬ間に帰ったらしい。
彼の後を追うように、私は静岡駅へ再び歩み出した。

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