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Q2.木に秋と書く漢字はあるのか?

木偏に春と書いて"椿 つばき"
木偏に冬と書いて"柊 ひいらぎ"
までは知っていた。
先日、木偏に夏と書いて"榎 えのき"と知った。

では、木偏に秋と書く漢字はあるのか?



これはですね!漢字はあります!ほんとです。
質問者さまもひょっとしたらご覧になったことあるかもしれません。
都会のカフェやホテルのラウンジの植栽にたまに植わってますからね!
田舎ですと、思わぬところに生えてきて成長も早いため厄介者扱いをされていたりもします……。


今から説明します。
読み方は答えから木偏に秋と書いて"楸 ひさぎ"です。

漢字辞典の木偏を順に確認しますと、質問者さまのお答えになったということでひとまず落着です。



ではここで質問者さまから新たな疑問が……"楸"とはどんな植物なのか、と。
これがちょっと難題なのです。お付き合いください。

植物の姿は、植物図鑑のアカメガシワ(赤芽柏)をご覧ください。
『里山の植物ハンドブック』によれば、アカメガシワは、新芽が赤くカシワ同様に葉を食事に使ったのでこの名になった。伐採地や崩壊地にいち早く育つ「パイオニア植物」のひとつ、とあります。

そしてここからがとても重要です。アカメガシワが確認できた方は、キササゲ、できればアズサの頁も確認してください。
山と溪谷社の野外ハンドブック6『樹木1』には、アカメガシワ、キササゲ、アズサの掲載があります。
三省堂書店の『散歩で見かける街路樹・公園樹・庭木図鑑』にもアカメガシワとキササゲの掲載があります。

ちょっと待て、楸について訊いているのに、なんでアカメガシワとキササゲのふたつも紹介するんだ!と思われたみなさま、素晴らしいご指摘です。順にご説明いたします。

漢字から字の意味を調べるときには、漢字辞典を使います。
『新漢語林』によれば、①ひさぎ。きささげ。ノウゼンカズラ科の落葉高木。葉は桐に似、初夏に管状の花を開き、ささげに似た実を結ぶ。
ここで確認してほしいポイントですが、アカメガシワの記述は見つけられませんでした。

漢字辞典から読み仮名か判明したところで、国語辞典をひきましょう。
『広辞苑』によれば、楸はキササゲまたはアカメガシワのことをいう、とあります。
『精選版 日本国語大辞典』によれば、①植物の古名で、「きささげ(木豇豆)」または「あかめがしわ(赤芽柏)」をさしたと考えられる。②「とうきささげ(唐木豇豆)」の古名、とあります。

さて、勘のよい古典文学好きのみなさま、きっとお持ちですよね高校の時に使った古典便覧を!
では、お手許の古典便覧の巻頭万葉植物をご覧ください。楸が載っているものもあるかと思います。
たとえば『21新国語総合ガイド』の巻頭に夏の植物が写真とともに掲載されています。このなかに、"ひさぎ アカメガシワか"とあります。


余力がある人は『新漢語林』梓の項目①を確認してください。あずさ(あづさ)。楸(シュウ)・(ひさぎ)の一種。きささげとも。あかめがしわともいい、定説はない。落葉高木で、中国では最も優れた良材として、各家庭に植えられ、棺・版木などに用いられる、とあります。
また、『日本大百科全書』のキササゲ、アカメガシワの項目、『百科事典マイペディア』のアズサの項目、『精選 日本国語辞典』の 柃(ひさぎ、ひさかき)の項目も確認してください。

これらを踏まえると、呼び名は時代とともに変化することも見えてきます。また、どうやら楸という漢字から連想されるものは中国と日本で異なる……という推察が立ちますね。漢字も奥深いですねぇ。
質問者さまとはその話でたいへん盛り上がりました。



では最後に、古典に出てくるような植物名を今の植物名と比定する研究についてご紹介してこの質問記事を終えたいと思います。

『和漢古典植物名精解』この本は、当時の人が日常生活で活用してきたという視点を鑑みて、生薬の専門家である著者が古典の植物の解析を試みた本です。
13章~15章に「ひさぎ」について記述があります。特に14章は万葉集に詠われる「ひさぎ」について先行研究を提示しつつ、古典のなかに示唆される植物の生態や周辺環境その植物がいつ頃日本に入ってきたかを踏まえて、"アカメガシワ"ではないかと比定しています。
巻頭に植物の写真の掲載もあるので、是非ご確認ください。





質問
木に秋と書く漢字はあるのか。

回答
ある。
"楸 ひさぎ"。
ただし、この漢字がどの植物を指すか指していたかについては、「アカメガシワ」「キササゲ」など諸説あり。 

区分
解決

参考資料
[資料1]『里山の植物ハンドブック:身近な野草と樹木』.NHK出版.2009年. アカメガシワ(赤芽柏)

[資料2]冨成忠夫『樹木1』.山と溪谷社.1979年.(野外ハンドブック,6). アカメガシワ、キササゲ、アズサ

[資料3]葛西愛『散歩で見かける街路樹・公園樹・庭木図鑑』.創英社/三省堂書店.2012年. アカメガシワ、キササゲ

[資料4]『21新国語総合ガイド』.2訂版.京都書房.2009年.p.54.古典の背景:植物. 

[資料5]『新漢語林』第2版.大修館書店.2021. 楸、梓

[資料6]『広辞苑』第7版.岩波書店.2022. ひさぎ(楸)、あかめがしわ(赤芽柏)、きささげ(木豇豆)、あずさ(梓)

[資料7]『精選版 日本国語大辞典』.小学館.2006. ひさぎ(楸)、ひさぎ(柃)、きささげ(木豇豆・梓)、あかめがしわ(赤芽柏)、あずさ(梓)

[資料8]『日本大百科全書』.小学館. キササゲ(木豇豆、梓)、アカメガシワ(赤芽柏)

[資料9]『百科事典マイペディア』.平凡社. アズサ(梓) 

[資料10]木下武司『和漢古典植物名精解』.2017年.和泉書院.pp.363-466.13章~15章.

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