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107.【読書と私】㉗星々の悲しみ/宮本輝:2冊の本とともに~いわた書店選書から(2)(3)
高校生の時に出会ったから何度となく読んだ、宮本輝の『星々の悲しみ』好きな小説の一つ。
まずこの書き出し
その年、ぼくは百六十二編の小説を読んだ。十八歳だったから、一九六五年のことだ。
多少なりとも読書好きと思う身には、たまらない書き出しではないですか?
諳んじるまで覚えたなんて、決して言えないけど読む事に、あーこのフレーズ、文章が好きと思うところがある。それが、決して美辞麗句でなく何気ないことばなところに、あぁ天才だなと、ひれ伏したい気分になる。そして大阪弁の良さ。つくづく宮本輝の大阪弁と藤井風の岡山弁はずるい。
内容も、受験生の「ぼく」(名前もきちんと出てくるけど「ぼく」がいい)が、受験勉強そっちのけに意地になって読書に励むところは、当時の自分とやるべきことを置いといてnoteの執筆に向かう今の大人の自分も含めて、共感が深い。そして有吉、草間との出来事、「星々の悲しみ」に通じる部分が、きっと多感だった十代の自分に刷り込みのように刺さったからいつまでも鮮明に楽しめているように思える。
いわた書店の選書カルテで印象に残った二十冊の本を挙げる際、この本は真っ先に挙げた。他の本も挙げつつ自分を振り返り、noteで読書記録を書く中で、私は賞で言うなら、直木賞より芥川賞作家の方が好きなのでは?というのは最近気づいたこと。その嗜好が選書に反映されていたか?
では、いわた書店選書の中から、この本と合わせて挙げたい2冊
『そこのみにて光輝く』佐藤泰志 紹介
本も作者も初めて見るものだったから、本が届く前にもうあれこれ検索して見ていた。芥川賞には計5回ノミネートされていたこと、村上春樹世代、亡くなられていること、選書の本は映画化されていて(綾野剛、菅田将暉となかなかのキャスト!)賞もいただいていること、映画化から10年経って今年発祥地の函館で再上映されていたこと…。そして、本が届いて、一緒に注文した岩田さんの本『一万円選書 北国の本屋が起こした奇跡の物語』を見て岩田さんと知り合いだったことも知る。
あらすじ・感想
舞台は北の夏、海辺の街(おそらく函館、その付近)パチンコ屋で知り合った男の住むバラックに行く流れになった男が、そこで男の姉である女と出会う。姉弟家族の抱える生活、結果男女がひきうけることになる試練など、底辺と言われるような生活の中で、運命に逆わずも自分を持って生きているような登場人物が力強い。内容については「どこまでもすくいようのない物語」とも感想で書かれているのもみかけた。
佐藤泰志の文章は朴訥とも言っていいのか、ノイズ少なめで淡々と、時に突っかかりがあるくらいに思えたが、それゆえ、人物像がくっきりと浮かぶようだった。noteの中で、宮本輝『蛍川』とこの作品を比べていた話もあったが、宮本輝の文章のうまさに対して正に対極のような感じ。
そう言えば、高校の時倉本聰の『北の国から』のシナリオ本を読んでいた。その感覚に近いよう。
話は変って、北海道グルメは他地域の方からすると(海産物嫌いな方などは別として)何かと持て囃されるものでもあるが、素材重視で江戸前のような技巧や、調理上の工夫は少ない面も言われてたこともある。逆に言えば、都のものは素材がそれほどでなくても、調理法によって価値があがる技巧があるような。
そんな食事と一緒にしては何なのだが、北海道的なのか、素材の切り取り方がすごい。よくこういう題材を書いたと思ったところと、それが30年以上経った今、全く同様でなくても、この現代で問題となっていること(ヤングケアラーのことなどをイメージしています)に通じているところもあり、古い時代の話のようで、しっかり残りうる作品だと思われた。
知り合いというのを別にしても、著者を読むと良い著者の作品を残すべく奔走もしている岩田さんに、宮本輝読んでるんだったら、この作家も読んでみてと薦められたように思った。
あまり購入したことなかった気がするが、河出文庫さん、最近他の本で、これも河出文庫なんだと思うこともあり、取り扱っている作品なかなか良いこと今更ながらに知る。
『えーえんとくちから』笹井宏之
二十六年で生涯を閉じた夭折の歌人です。重度の身体表現性障害で十年以上にわたり闘病生活を送りながら短歌や曲づくりも行っていたようです。
優しいことばで綴られた短歌 本人の境遇から出たものかとも思いつつ、どこか疲れた人に寄り添ってくれるあたたかさがあります。
短歌というみじかい詩をかいています
気になった表題の『えーえんとくちから』については
えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい
とページをめくってすぐに現れた。
私の読書歴では、糸井重里の『ボールのようなことば』が好きで、パラパラめくって読む日々があった。何かの真理を追究してくれるもの。どこかそこに近いような、でもそれより遠慮しつつ語ってくれているようにも思う作品です。
この2冊が導かれたのは
岩田さんの選書については、
選書に取り掛かっているときは「軽いトランス状態」になっているかもしれません。1冊ずつに効能があるというよりは、何冊か読んでいただいたあとに、「合わせ技1本!」とれるかな?という気分で選んでいます。
とあり、カルテに書いた本の1冊に対して1対1対応のようなものではなくて、どこか蜘蛛の糸か、芋づる式のようにそれぞれがつながっている感じを受ける。だから『星々の悲しみ』だけでなく、私が挙げた他の本や、記述した内容から導かれたものでもあると思いつつも、『星々の悲しみ』の中のあるフレーズが心をよぎる
「五匹ぐらいが何や。有吉は…にやられたんやぞォ。秀才で男前で、十九歳やったんやぞォ」
二人で一仕事を終えた帰り道、遭遇した犬を怖がる妹に、亡くなった友人を思い放ったつぶやき。妹に向けての文句の中にぼくの切ない辛い心情があふれてくるようで印象的なセリフ
年齢は違うけど、惜しまれる生涯と、遺されたものを大事に味わいたい。そんなところがつながってくるようで、そんな縁を感じながら読んだ2冊。
宮本輝(1947ー )
『星々の悲しみ』1981初版
2007『宮本輝全短編 上』に掲載
2008 新装版文庫
佐藤泰志(1949-1990)
『そこのみにて光輝く』1989単行本
2011文庫
笹井宏之(1982-2009)
『えーえんとくちから』2019