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92.【読書と私】㉓楽園のカンヴァス/原田マハ:巨匠の伝記ミステリー

初めて読む原田マハさん。それまで知らなかったけど、名前を見かけることが続きその存在を知って読みたくなった。何から読めばと思いながら決めた一冊。蘊蓄は語れないけど、絵画は好きだから。

絵画の何がいいんだろうとふと思う。
美しさだけでなく、そこに注がれている時間、思い、そしてその絵画が過ごしてきた時間を感じられるからかな。

小中学生の頃は、やはりルソーやピカソの絵については、変わってると思うことはあった。こういうのが芸術っていうんだと釈然としない納得をしたり。だんだん個性について一目おけるようになったり、価値観の変化もあり、いいなと思えるようになってきた。

  *  *  *

表紙の絵は印象的。ルソーの『夢』
この絵に『夢』というタイトルなんだ。

その背景は、小説を読み進む中で十二分に感じられてくる。この絵と酷似した絵を真贋判定していくその過程と、その資産価値を巡っての人物ドラマがどんな着地点になるのかドキドキしながら読んでいった。

小説の舞台は倉敷の大原美術館から始まり、17年前のニューヨークからバーゼル(スイス)の本編がすすみ、また17年後のニューヨークへ戻る。
大原美術館…昔行った時は一部工事中だったが、訪れたところが出てくるの
は思いを馳せられて楽しい。

ルソーの絵が描かれた当時のことも含めて、異なる時間がつながっていくのは見事だった。歴史や時代のつながりは苦手でとんちんかんな私でもあるが、ルソーの時代のことが語られる中で、エリック・サティが出てきたのは嬉しかった。ロジャー・シャタックの『祝宴の時代』という本のことに触れられていて、他2人の詩人を含めて4人のことが書かれているよう。「前衛」というところが共通となるのか、読んでみたいと思った。

小中学生の時こそ殺人事件のミステリーを読んでいたけど、人が亡くならない謎解き要素のみのミステリーが今はいい。
伝記もよく読んでいたから、偉人のエピソードは興味深い。
昔だからか、なにかトキワ荘のような、著名な方たちのつながりが見えてくるような部分もまた楽しかった。

 *   *   *

そして、noteで知ったが原田マハさんは、原田宗典さん(しっかり読んだことはないけど、あーいう本よねと雰囲気はわかる)の妹さんだそう。兄妹作家って私の知る範囲(せまいけど)では初めて。柔道の阿部兄弟でないけど、お兄ちゃんに憧れてのようなところはあるのか、ちょっと羨ましい世界観。
美術ミステリーの本、ピカソ、ゴッホ・セザンヌに関係した話もあるよう。2冊ほど巻末の書籍紹介で見かけた。芸術の秋でもあるし読み進めてみたい。

今回見つけた見出し画像では、こうしておしゃれなインテリアとしても受け入れられているルソー。生きている時代に陽の目をみられなかったのは残念だけど、ひたすらに注いだ情熱があってのもの。この色彩!小説中では、ビリジアンの絵具を求めていた場面が印象的だった。彼自身、製作過程の中で得たものは既にあっただろうと信じて夢みていたい。

                                     原田マハ(1962- )
       『楽園のカンヴァス』2014


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