公立中学校が入試対策から撤退すべき理由(その1)
競争原理を支えていたもの
かつて競争原理を支えていたのは、成長を続けていた経済社会でした。
当時は、「今頑張れば、将来きっといいことがある」と信じられていたのでしょう。
いい高校に入れば、いい大学に行けて、いい就職ができる。そうなれば、高収入が期待でき、いわゆる「勝ち組」の一員になれる、と。
でも、本当に今もそんなことが言えるのでしょうか。
ひょっとしたら、「学歴」の効果を過大評価しているだけなのかもしれません。
もしそうだとしたら、高校入試を含めた今の入試制度は、もはや制度疲労を起こしていることになります。
「大学全入時代」なのに
経済成長がほぼ期待できなくなった今、必ずしも学歴が「勝ち組」を保障してくれるとは限らなくなっています。
今、「大学全入時代」を迎えていると言われます。
行き先を選ばなければ、数の上では誰でも大学生になれる時代になりました。
株式会社MCJ代表取締役社長兼最高執行責任者(COO)の安井元康氏は、大学を卒業する効果は「ドアノック効果」に過ぎないとして、次のように述べています。
つまり、大学を出ていればそれなりに職業選択の幅は広がるけれども、それはあくまでも就職試験を受ける段階(企業の入り口のドアをノックする)までの効果でしかないというわけです。
また、大学に通う意味も変わってきたといいます。
どの大学を卒業したかよりも、そこで何をしたかが問われる時代になっているということです。
「学歴」の時代から「学習歴」の時代へ
「オープンバッジ」というのをご存じでしょうか。これは「知識・スキル・経験のデジタル証明」のことです。
これまでは、どこの学校を卒業したかという学歴でしか個人の学びを証明できませんでしたが、オープンバッジによって個々人がどんな資格を持っているか、どんな研究をしてきたのか、あるいは、これまで受けてきた研修にはどんな内容があるのかをデジタル化し、クラウド上に公開することで一種の証明書のような機能を果たすというものです。
大学や企業は、クラウド上で検索すれば自分たちの組織に有用な人材を確保しやすくなります。これは、「学歴」から「学習歴」へと移行する試みとして注目され始めています。
時代はここまで進んでいるのですが、世間一般の「学歴信仰」は必ずしも収まっているようには思えません。
家庭の経済状況さえ許せば誰でも大学に行けることで、大卒の希少価値は下がっているなか、行かないことへの不安は以前よりも強くなるでしょう。
「今の時代、大学すら出ていないのはダメなんじゃないか」と思うわけです。
でも、「オープンバッジ」などがシステムとして誕生しているのは、社会が「学歴」よりもその中身を求めているということでもあるのです。
そうした中で、公立中学校は今までどおりに受験を意識した授業を続けることに、どんな意味があるのでしょうか。
そんなことよりも、私立中学校や進学塾ではできない何かを目指す必要があるのではないかと思うのです。
次回(発信日未定)は、いまこそ求められる「競争原理を超えた」公立中学校の目指すべきものについて、具体的な取り組みも含めて述べたいと思います。