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職業欄に「俺」と書ける男になれ、とお前はニラ臭い口で言った、

十一月十五日

人間が底意地悪くなるとすれば、おそらく考えられる理由は一つだけ、苦労を味わったがためだ。

セリーヌ『夜の果ての旅』(生田耕作・訳 中央公論社)

午後十二時四七分。ビリー・ジョエルみたいな老婆に道を聞かれて教えたら頭に牛乳をかけられる夢を見る。ネスカフェエクセラ、チンした残飯。この日記を書き始めてからそろそろ700日になるのか。「継続は力なり」なんてほざく奴がいるがこんな日記をまいにち書いたところで何も起こらない。書くたびに自分の惨めさと醜さを自覚させられ気鬱が重くなるだけ。思うに俺にこれを書かせているのは自虐的快感なのではないか。どす黒い悲痛、終わりなき悔恨、ドナドナ狂騒曲、日本大沈没、路頭に迷う子羊たち、薄汚い子羊たち、自意識が強く互いの傷を舐め合うことさえ出来ない子羊たち。「人は誰も縛られたかよわき子羊ならば 先生あなたはかよわき大人の代弁者なのか」(尾崎豊)。悪の存在論はコーヒーの渦に消えていった、なんて言わせないわ。きのう午後四時ごろ、文圃閣に行った。また独り言ジジイがいた。このジジイぜったい毎日来てるわ。俺が行ったとき大体いるから。妻子とかあるのかな。部屋はたぶん古書だらけだろう。古書愛者は古書と結婚すべきであって人間なんかと結婚してはだめだ。人間との結婚なんか悪趣味な凡人どもにまかせておけ。買った本は、宇能鴻一郎『夢十夜 双面神ヤヌスの谷崎・三島変化』、『大宅壮一エッセンス2 世相料理法』、『色川武大 阿佐田哲也全集2』、原彬久『岸信介 権勢の政治家』、大西巨人『神聖喜劇』(第三巻と第五巻)の六冊。しめて1100円。『神聖喜劇』は第二部「混沌の章」までは読んだのだけどなかなか他の巻が入手できないので読まずじまいだった。しかし三巻と五巻だけって何なんだよ。いくら探しても四巻が無かったんだから仕方がない。もっともこれは「筋があるようでない小説」だったと思うのでどこから読んでもそれなりに楽しめるはず。できればいずれ光文社文庫のものでまとめて読みたい。リアル書店になぜか置いてないんだよね。少なくとも俺がときどき新刊を買う店にはない。くだらない恋愛小説や探偵小説を置くスペースがあるなら大西巨人くらい置いとけよ。なに考えてんだ。センス無さすぎ。売れなくても置いておかねばならない本ってのがあるだろ。帰途、午後五時ごろ、非常ベルが鳴りまくっているマンションの前を通る。煙はなかった。そのあと二台の消防車とすれ違った。もう書くことないわ。酒が飲みたい。微醺を帯びたい。こんどから飲むのは午後十一時までにする。そうすればいくら飲み過ぎても寝るまではにはだいたい酒は抜ける。動悸を感じながら寝付くと睡眠が浅くなる。胃のムカムカと吐き気はだいたい横になると顕在化する。酒飲みのなかには吐くことに慣れっこになっているのもいるけれど、俺みたいな「中庸」を愛する紳士はそんなふうには到底なれないし、なりたくもない。大きな快楽にはたしょうの不快は付き物だ、ということを理解しておくこと。セナ様に抱かれたい。セナ様の汗になりたい。キング・オブ・男。悲しみの突貫工事。ヴィーナスの胸毛。「いいか坊主、立派な大人になるんだよ」。十年後の日本にはゾンビしかいないだろう。

【備忘】9300円、飯塚浩二『日本の軍隊』

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