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【読書】きみを死なせないための物語①


こんにちは!エルザスです。


今回はマンガ感想文です!


以前記事にした本、『SFマンガで倫理学』で紹介されていた作品

『きみを死なせないための物語』


の感想を綴っていきます。


以下、『君を死なせないための物語』最終巻(単行本第9巻)までのネタバレを含みますのでご注意ください!







エルザスの感想

結論から書きましょう。
この作品には、

理性を蹴散らすほどの愛の強さ

が表現されていると思います。

ガンダムSEED FREEDOMのラクス・クラインのセリフを借りるならば、

必要だから愛するのではありません!
愛しているから必要なのです!


ということでもあります。

必要性やメリットがないとしても、
人は愛することを止められない


合理的な判断なんて、愛の強さの前では道を譲らざるを得ない
ということが、このマンガでは表現されていました。


まあそれだけ書くと割とありきたりな内容なんですが、
そのありきたりな内容をマリアナ海溝より深く納得させてくれるのがこの作品のすごいところです。

その秘密は、舞台設定のうまさとストーリー展開の素晴らしさにあると思います。


どんな舞台?何がテーマ?

地球を離れざるを得なかった人類が、宇宙に浮かぶ都市国家のコクーンで暮らす時代。愛は猥雑なものと評され、契約だけがものをいうすべてが管理された社会で、孤独に怯えながら地球に戻ることを夢見て生きる人々の葛藤を描く。

マンガペディアより


思うにSFの本質は、「Ultimateな環境を設定し、その中で『●●とは何か?』と問うこと」にあります。


本作で問われているのは「愛とは何か?」
です。

そして本作における「Ultimateな環境」とは、すべてが管理された宇宙コロニー「コクーン」です。

コクーンでは、子ども時代の友人関係や恋人関係、配偶者・家族としての関係、そして生殖活動の相手としての関係まで、すべての人間関係が当局によって管理されています。

人間関係を結ぶには必ず「契約」を行う必要があり、契約がない相手とは気軽におしゃべりをすることさえできません。

また、配偶者や生殖相手としての契約を行う場合には、その組み合わせがコクーン社会にとって有益かどうかが重視され、当人同士の恋愛感情は問題になりません

そもそも、コクーンでは「愛は猥雑なもの」というのが常識になっており、恋愛の話は最低最悪の下ネタ、汚らわしいもののように思われています。

地球に住めなくなった人類がコクーン内のほんのわずかな資源で生きていくには、最大の効率で無駄なく生きていくしかない。
そんな厳しい実情が、このディストピアめいた「人間関係の管理制度」を生み出したのでしょう。



愛とは何か?①


「最後ににぎっている手は きみの手でなければいやだと思ったんだ」
「あなたと一緒ならわたしは 遠い星に行くロケットでただ燃え尽きる運命でもよかったんだわ」


本作の主人公、本多アラタとヒロインのターラが、お互いの気持ちを告白するシーンのセリフです。

アラタとターラ


2人は「ネオニティ」と呼ばれる進化した人類で、数百年に及ぶ寿命と高度な知能を持っています。
アラタは科学者として、ターラは医師として優秀な評価を得ていました。



さて、「愛は猥雑なもの」とされているコクーンで、2人がお互いの気持ちを打ち明けあうまでにはものすっっっっっっごい紆余曲折がありました。
その過程はぜひマンガを読んで追ってみてほしいと思いますが、とにかくも愛を告白するキッカケとなったのは、アラタが密かに進めていた壮大なプロジェクトでした。

アラタは自ら宇宙船を建造し、太陽系の隣の恒星系であるアルファ・ケンタウリまで行って、そこで人類が住める新しい惑星を探そうとしていたのです。

そしてアラタはターラに、その果てしない旅路に同行してほしい、と頼みます。ターラは長寿命のネオニティなので、片道200年と見積もられたアルファ・ケンタウリへの長い旅でも同行できます。
なおかつ、2人は幼馴染。
つまり、子どもの頃に友人としての契約を結び、その後は恋人としての契約も結んでいた間柄でした。

しかしターラは、アラタの頼みを一度は拒否します。

ターラはこう思ったのです。
アラタは「長寿で有能な医師」が必要だから、自分をアルファ・ケンタウリへの旅に誘ったのではないか、と。

ターラがそう解釈したのも無理はありません。コクーンでは、合理的な目的のためだけに人間関係(契約)を結ぶのが当たり前だからです。
しかし、アラタに対してひそかに純粋な恋心を抱いていたターラは、そんなビジネスライクな理由で自分を誘ったアラタに怒りと虚しさを覚えたのでした。

ターラに拒否されたことをきっかけに、アラタは自分を見つめ直し、「なぜ自分はターラと旅に出たいのか」を改めて真剣に考えます。

友人との対話、そしてコクーンでは珍しく「恋愛結婚」をしたターラのご両親との交流を経て、アラタはその理由を確信しました。


アラタは再度ターラと話し合い、旅の目的をしっかりと説明します。
その話し始めから、先ほど紹介した愛の告白に至る展開は圧巻というほかありません。本当に何度読んでも泣ける。


話し合う際、無契約状態となっていた2人はまずビジネスパートナー契約を結び、あくまでビジネスとして、アルファ・ケンタウリへの旅について話をします。
その様子はまさにビジネスライク。理性的な判断、メリットがあるかないかを基準にした会話が展開されます。

しかし、アラタの心の奥底にあるものを知りたくなったターラは、次にフレンド契約を結びます。これで、少しは感情を交えた会話ができるようになりました。
ターラは、アラタが自分の命を人類の未来のために使おうとしていることをしっかりと理解しました。
その上で、ターラはアラタに問いました。

「あなたが自分の命を使う目的はわかったわ
ーーわたしがあなたと一緒に行く意味は?」


「最後ににぎっている手は 
きみの手でなければいやだと思ったんだ」


「……子どものころ、コクーンになんの不満もなかったの 
アラタとパートナーになって 
いつか生殖して 人類の種の保存につながるのは素敵なことだと思った
でも あなたがいなかったらきっとそうは思えなかった 
ーーだから だから
あなたと一緒ならわたしは 遠い星に行くロケットでただ燃え尽きる運命でもよかったんだわ


「だめだ 『契約』してない……」

「契約の義務に縛られたあなたとのキスなんてもううんざり
……でもあなたとの契約でなければ何の意味もない わたしは……」

「ーー愛してるよ」

「ねえ 知ってた……?
あなたの名前は日本語で『新しい』という意味で
わたしはヒンディー語で『星』なの
……ふたりで『新しい星』になるのよ……

単行本第7巻より


これが、アラタとターラが結ばれるに至った顛末です。

さっきまでビジネスライクだった会話が熱を帯び、とうとう契約無視のキス(フレンド契約ではキスすることは許されていません)にまで燃え盛っていく様は、身震いするほどロマンチックです。
画の美しさも相まって何度読んでも本当に泣ける、最高の名シーンです。


合理的な判断なんて、愛の強さの前では道を譲らざるを得ない

なぜそうまで愛しているのかはわからない
ただ、愛はおそろしく強い

アルファ・ケンタウリへの旅路の果てに待っているものが何かわからなくても、単にロケットで燃え尽きる運命だとしても、それでも良いと思えるくらいに



優秀な頭脳を持っていて普段は理性的極まりない2人ですら、愛の力には逆らえなかったのです。



まとめ


Ultimateな環境で『愛とは何か?』を問う本作の魅力、少しでも伝えることができたでしょうか……?

いや〜全部は伝わんないだろうなぁ!笑
だいたいマンガの単行本で7巻かがりで描いてきた感動を、noteのたったひとつの記事で伝えるなんて無謀だもん!

なのでここでは、開き直ったテンションで本作の輝かしい魅力を3点に絞ってお伝えします。

『君を死なせないための物語』の魅力3選

  • 愛とは何かを教えてくれる

  • 画がめちゃくちゃキレイ!

  • 舞台設定とストーリー展開が神!


とにかく読んで損はありません。
それだけはこのエルザスが保証します!


最後に、本作が投げかける
「愛とは何か?」
という問いに答えておきましょう。


・愛とは、理性を蹴散らすほど強いものである

・愛とは、「最後にはその人の手を握っていたい」と思う相手に抱く感情である

・愛とは、「その人となら遠い星に行くロケットでただ燃え尽きる運命でも良い」と思える相手に抱く感情である

・愛とは、2人で『新しい星』になることである




ではまた!









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