世界に一つだけの、はっぴーな結婚式
「入居者さんの誕生日会をやるから、一緒にお祝いしに行こう」
夫にそう言われて、ある日の夕方に「はっぴーの家ろっけん(以下、はっぴー)」に向かいました。
はっぴーは神戸市長田区にある介護付きシェアハウス(正式名称は、サービス付き高齢者向け住宅)。年齢も生まれ育った環境も違う人達が集い、地域のコミュニティを生む場所にもなっています。
私の夫は、2020年春からここで教育事業の立ち上げをさせてもらっています。
なんとこの日、1ヶ月前に婚姻届を出した私たち夫婦の結婚を祝うサプライズパーティーを、はっぴーのスタッフの方たちが用意してくれていたのでした。
入居者さんの誕生日×結婚式。この日の夜は「本当に現実に起こったことだったのだろうか?」と思うほど、信じられない出来事の連続でした。
それは「ちょっとしたサプライズ」と呼ぶには相応しくない、はっぴーに関わる方達が用意してくれた「世界に一つだけの、はっぴーな結婚式」だったのです。
まずは4階のお部屋で暮らす入居者さんのお誕生日を祝って乾杯。
そのまま1階に降りると、なぜかフロアが真っ暗に。
よく見ると、フロアの先には高砂席が用意されていました。
BGMは、陣内さんが歌う「永遠にともに」。
乳頭ケーキに入刀して、ファーストバイト。
周りを見ると、はっぴーのスタッフの方や入居するおじいちゃん、おばあちゃんはもちろん、子どもや「たまたま来た」という方も。
この時点でどこから突っ込めばいいのかわからない状態ですが、そんな展開はまだまだ続きました。
お色直し用のドレスが用意してあると言われて着替えに行くと、なんと控え室にあったのはウェディングドレス…!
再び入場。嬉しいやら恥ずかしいやら。まさか自分がこの日にウェディングドレスを着るなんて、夢にも思っていませんでした(笑)
しばらくすると新郎が入場。
なぜかまたタンクトップ姿で、小さい牛に乗って登場しました。
そして、誓いの言葉。
ビンゴ大会では、子ども達が大はしゃぎ。
景品は私たち夫婦の本籍地である大阪唯一の村、千早赤阪村の特産品。なんとこの日のために、おせっかい不動産のアフロさんが往復3時間以上かけて現地まで行き、買ってきてくれたのでした。
当日来られなかったはっぴーのスタッフさんからのビデオメッセージ。お花も贈ってくれました。
その後は、新郎母からのビデオメッセージまであり感激。
獅子舞も登場。
入居者さんにごあいさつ。
結婚式の後半に、はっぴーの社長である首藤さんが「なぜ新郎(ワダケン)がはっぴーで働くことになったのか」を話してくれる場面がありました。
ワダケンは、「子どもが自ら命を絶たない学校をつくりたい。そのために教育事業をやらせてほしい」と言って、1年半前にはっぴーに来た。今はっぴーに来ている子ども達は、誰一人自分で命を絶つことはことはないと思う。
たしか、そんな話をしてくれたと思います。
死にたいとか思うわけないじゃん!だって毎日楽しいもん!
普段はっぴーで過ごしている中学生の女の子が、社長の話を聞いた直後に言った言葉。それが、なんだかとても胸に響きました。
SNSではっぴーの発信を見ていると、カオスで賑やかな日常が伝わってきます。
でもその裏では、きっと多くの介護現場と同じようにいろんな問題が起こり続けていると思います。そんな状況の中でも、誰かの誕生日や結婚をこれでもかというくらい準備してお祝いしてくれるのは、一体なぜなのでしょうか。
はっぴーのキャッチフレーズは、“遠くのシンセキより近くのタニン”。社長の首藤さんはいつも、「目の前にいる3人のためにできることは何か」を考えている人です。
けれどそれを首藤さんだけが大切にしているとしたら、こんなにもたくさんの人が集まり、笑いに包まれた場所にはなりません。
はっぴーで働くスタッフやここで暮らす人、ここに関わる人たちがその価値を感じているからこそ、この日のようなhappyな時間と空間が生まれるのだと思います。
そしてこれははっぴーの魔法のような気がするのだけど、この日のお礼をしたいと思っても、「モノを買って贈る」のでは物足りないような気持ちになってしまうのです。
私たちが生きる世界は、お金を出せば手に入れられるモノで溢れている。多くの人が、それはもう手にしている。
誰かのお祝いをしたいとき。
誰かに感謝を伝えたいとき。
誰かに愛を伝えたいとき。
その思いを伝える方法は、きっとお金をかけることだけではないのです。人間のあたたかさや繋がりを感じる暮らしを求めている人が、もしかしたらここに集まっているのかもしれません。
この日のために準備してくれた方、この日、この空間にいてくれた方、本当にありがとうございます。
社長夫人とスタッフさんが作ってくれたウェルカムボードは、大切にリビングに飾ってあります。