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映画『それでも私は生きていく』

5年前に夫を亡くし、通訳・翻訳者として働きながら8歳の娘リンを育てるサンドラ。忙しい日々の中でも父親ゲオルグの家に通い、面倒を見る。ゲオルグは大学で哲学を教えていたが、視力と記憶が薄れていく。ゲオルグの恋人や元妻らも彼に寄り添うが、施設に入所することになる。サンドラは偶然かつての友人クレマンと再会し、妻子がいることを知りながら恋に落ちるがーー。

主役のサンドラを演じたレア・セドゥはもちろんのこと、サンドラの母親(ゲオルグの元妻)、そして特にゲオルグを演じた俳優の演技がすごい。ゲオルグの、心身ともに衰えながら、知的精神を宿す魂、紳士的な物腰の柔らかさ、恋人への愛、気力が抜けてしまった空虚さの表現に脱帽する。恋人と無言で頬を寄せ合う一瞬のショットで彼の深い愛情が伝わってきて、表情の演技にすごみがありぞっとするほどだった。

サンドラは父の蔵書にこだわりを見せ、父親の仕事と父親に尊敬の念を抱いているのだろう。しかし父親は恋人に夢中で、娘にも優しさは示すものの、サンドラは悲しい思いを抱えている。それで、自分の知らない面白い話を聞かせてくれる科学者のクレマンに引かれた面もあるのかもしれない。

レア・セドゥは、冒頭の生活にやや疲れている様子から、次第に服装もおしゃれになっていく。ベッドに横たわる後ろ姿の裸体が素晴らし過ぎて、つい目を奪われてしまう。

サンドラの娘役もとてもよかった。8歳という設定だが、大人びているので、もっと年齢が上の設定かと思っていた。

2時間弱の映画だが、実際よりも長く感じた。やや退屈な展開だったか。ラストも、意外にも凡庸な感じがしたが、希望的観測を託した未来を描きたかったのだろうか?

原題は「美しい朝」といった意味かと思うが、父親が自伝(?)のタイトルとしてメモしていた言葉として作中に出てきた。

作品情報

監督:ミア・ハンセン=ラブ
製作:フィリップ・マルタン ダビド・ティオン
脚本:ミア・ハンセン=ラブ
撮影:ドニ・ルノワール
美術:ミラ・プレリ
衣装:ジュディット・ドゥ・リュズ
編集:マリオン・モニエ

出演:
サンドラ役 レア・セドゥ
ゲオルグ役 パスカル・グレゴリー
クレマン役 メルビル・プポー
フランソワーズ役 ニコール・ガルシア
リン役 カミーユ・ルバン・マルタン

2022年製作/112分/R15+/フランス・イギリス・ドイツ合作
原題:Un beau matin
配給:アンプラグド

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