『完全版 あらしのよるに』:「本能と理性」「個人と集団」「多様性社会、共存」などがテーマの泣ける絵本
「あらしのよるに」シリーズ全7巻を1冊にまとめた本。もともと絵本だが、1冊になることで、児童書のようにも読める。そして、大人にもかなりおすすめ。
きむらゆういち 作、あべ弘士 絵。
ある夜、嵐を避けて入った真っ暗な洞窟の中、お互いが見えない状態で「友達」になった2匹の動物。翌朝再開すると、なんとオオカミとヤギだった。
オオカミはヤギを「エサ」としている。でもオオカミのガブはヤギのメイと気が合うと感じて食べるのを我慢し、ガブに対して同じく友情を抱いたメイもガブを恐れず信じようとする。
「秘密の友情」を育む2匹だったが、いずれそれぞれの群れにばれるところとなり、ガブとメイは逃避行する。そこにはさらなる危険が待ち受けていた――。
というストーリー。
読みながら後半はずっとぼろ泣きした。誰よりも一緒にいて楽しくて、自分の命より大切と思える相手。何を見ても、その人(動物だけど)のことが思い浮かぶこと。その時々の2匹の選択に胸をえぐられる。
絵はぱっと見あまり好みではなかったが、読み進めるうちに2匹と彼らを取り巻く自然の世界観にぴったりと思えてきて、いとしくなった。
2匹の友情は、友情とも恋愛とも取れそうな、でもそこを線引きして明確にすることはしていないところもよい。
作者と挿絵画家の2人による対談があとがきとして収録されている。作者は、このシリーズでガブの「おいしそうだから食べたい、いや友達だから食べてはいけない」という「本能と理性」のテーマを追求しようとしたと述べている。また、ビジネスパーソンからは、「個人と集団」について考えさせられると言われたそうだ。
私にとっては、異なる立場でも、だれよりもかけがえのない存在同士になれる、多様性社会の中の共存を示していると思えた。また、「無償の愛」の物語でもあると思う。
読み手によってどの側面に注目するかが変わってきて、さまざまな解釈を可能にする本だ。
何度読んでも泣けそう・・・。
映画版なども制作されているらしい。
また、演劇にもなっているそうだ。2匹のせりふが多いから、舞台化しやすいのかもしれない。