
文化人類学レポート:地球温暖化
身近な現象ということで、いろいろ考えて、想定された趣旨の中心ではないかもし れませんが、人間と地球の関係について、主に人間によるいわゆる環境破壊や地球温 暖化について、モノの側から捉えなおした発想をしてみようと思います。この夏の猛 暑はやはり過去にないほどのレベルだったと感じるし、世界中でも異常気象が多かっ たように思う。もちろん、ソーシャルメディアとスマホの発達によって情報が広く大 量にアクセスできるようになって、異常気象が増えたように感じているだけかもしれ ないし、温暖化や異常気象も科学的に議論もあるだろうが、暑さひとつとっても、身 近な脅威であることは間違いないといえる。海が高温になり、海洋生物の生態系が急 激に変化して漁獲量に影響を与えているし、日本も亜熱帯化しているといわれる。こ うした変化は、身近で日常の重要な現象として取り上げてよいものと考えた。
まずこうした現象を、従来のいわば近代的な人間中心観から記述すれば、まさに近 代を代表するイギリスの産業革命を最大のターニングポイントと考えることが多い。 いわく、蒸気機関の発明が、鉄道や蒸気船や自動織機などの発明品を生み、人間の技 術力が一気に向上し、あらゆる社会生産の効率が劇的に向上した。その中心となった 蒸気機関は、当時は主に石炭を燃やして水を沸騰させ、その蒸気でタービンを回して 動力や電力を得るものであるので、これ以降、地中に固定化されていた石炭や石油や 天然ガスなどに含まれる炭素が、燃やされて二酸化炭素として空気中に放出されて、 地球温暖化効果を持ち、現代に至るまで高温化の一途にあるといわれる。なお、現代 の高性能火力発電も、また最先端の原子力発電も、実は水を沸かして蒸気でタービン を回しているという点で、蒸気機関から何も変わっていない、純粋な蒸気機関の一種 にすぎず、あくまでも熱効率と規模が増加しているだけである。産業革命が最大のエ ポックメイキングといわれるゆえんでもある。もちろん、蒸気機関の構造自体はもっ と古くからあったようだが、大規模にそして継続的発展的に人類史において組織的に 利用されるようになった端緒がイギリスの産業革命である。蒸気機関以前の最大のエ ネルギー源は馬であったといわれ、今でも動力の単位が馬力(ホースパワー)である ことに残っている。馬と原子力潜水艦を比べれば、その動力効率が桁外れなことは瞭 然である。人間は古来より実は世界中で大規模に森林をしばしば破壊してきたことが 指摘されているが、それにしても、鉄斧と馬で行う森林伐採よりも、チェインソーが はるかに高効率なのもいうまでもなく、おそらく近代以降とくに現代において、歴史 上はじめて大規模に伐採されてしまったアマゾン川流域の森林地帯の破壊は、地球の 肺と呼ばれるこの地域の二酸化炭素吸収量がどれほど減少したかと考えれば、産業革 命は別の面からも地球温暖化に多大な影響を与えているとされる。
では、このような環境破壊や地球温暖化という近代以降の人間が引き起こしたとい われる現象を、モノの側から逆転して捉えてみることはできるだろうか。もちろん簡 単ではないし、だいたいそのように捉えたからといって、そのことが何か環境破壊を 止めたりすることの役に立つのかどうか一切分からないどころか、より悪い影響を与 えてしまうかもしれない。あくまでも思考実験として行ってみたい。
現代は人間が地球環境を破壊し、多くの絶滅危惧種を生んでいるといわれるが、そ もそも地球の歴史上、過去に人間とは無関係な大量絶滅が最低でも5回あったとされ る。すべてが科学的に完全に証明されてはいないようだが、1度目は、今から約5億 年前、当時の海水温は43度だったが、6000光年以内の超新星爆発の影響で気候変動 が起き、海水温が23度まで下がったため、まだ海洋生物しかいなかった当時、85% の生物種が絶滅したと考えられている。2度目は約4億年前に、原因はよく分からな いが、海中の酸素濃度減少や寒冷化で82%が絶滅。3度目は約2億5000万年前、や はりよく分からないが大規模な火山活動などで、結果として大気中の酸素濃度が低下 し、最大95%絶滅。4度目は約2憶年前、火山活動あるいは隕石の衝突によって76% が絶滅。5度目が約6600万年前、おそらく隕石の衝突による気候変動で70%が絶滅 し、このとき恐竜は絶滅した。つまり、地球にとっては、これまでに何度もその表面 に住む生物が大量に死んだりしている。しかしそのたびに数千万年かけてまたたくさ んの生物種が増えて、また火山や隕石でたくさん死ぬ、を繰り返している。あくまで も例えだが、コロナ以降定着した。アルコール消毒で皮膚の表面に住む細菌や微生物 がたくさん死滅しても、またそのうち繁殖しているようなものである。しかも地球表 面に住む生き物の死滅は、その原因が地球内部の地質活動の結果である火山か、隕石 である。そもそも地球内部のマントルの活動があるから、地球は、兄弟星の火星がい わゆる地表が荒涼として何も存在しないように見えるいわゆる死の星ではなく、この ようにたくさんの生き物がいるので、生物の存在と火山活動はいわばセットの現象で あり、生物種はそのほとんどが絶滅してきたともいえる。また隕石の衝突こそは、地 球という惑星にとって、それこそ惑星の一部である同僚といえる存在の衝突である し、6000光年以内の超新星爆発に至っては、地球よりもはるかにエネルギーの高い恒 星によるもので、いわば太陽がそのうち死滅する現象の類似である。地球に起きる現 象は、当然に地球と同規模かそれ以上の宇宙天体上のプレーヤーの力が大きい。地球 温暖化の議論では、太陽活動の変化説もあり、少なくとも過去の大量絶滅が人間と無 関係であるなら、モノが引き起こしているということになる。現在の平均海水温は約 21 度といわれ、仮説では1度目の絶滅時に約43度から23度だったとすれば、現代が 地球にとって異常とはいえない。よくある「地球が悲鳴を上げている」など、地球を 守るためというフレーズはどうも違う。地球をモノと言ってよいかは疑問もあるが、 少なくとも地球という物体からみると、現代程度の気候変動は大したことはなさそう だ。もし現代の気候変動が人間が原因なら、自分で自分たちを絶滅に追い込んでいる だけということになる。あるいはもしも地球や太陽の活動の結果なら、現在の環境を 保全する活動は地球を守る活動ではなく、地球自体の変化に逆らって人間が生存する ために温度を上げないように妨害している活動ということになる。この夏の暑さはた しかに耐えがたいほどだった。しかし、熱中症にならないようにと可能であれば一日 中エアコンをつけるように推奨し、繁華街の商業施設では集客のためにドアを開けた まま冷房を強めにしている様子をみると、温暖化を促進しているようにもみえた。
ちょっと暗い気分になってきたので、まったく違う視点から考えてみたい。地球や 太陽や隕石や火山はちょっと大きすぎるので、もっと小さなモノから考えたい。かつ て「利己的な遺伝子」で有名になったように、あれこそ人間中心から逆転して遺伝子 といういわばモノから見た考え方の有名な例といえ、遺伝子は人間をただの乗物とし て、遺伝子の繁栄のために人間の交配や生存をコントロールしているという示唆だっ た。同じようなことも、別の分野でも指摘される。例えば農業。農業こそ、産業革命 以前の最大のエポックメイキングではないかといわれるように、一般的な説明では、 人間の最初の地球に対する最大のインパクトを持つ、そしてもっとも継続的な活動で あり、人間が農業を大規模かつ組織的に行うようになって一気に生産力が向上し、人 口の爆発的増加につながったとされる。しかし、これを農作物である小麦やコメの側 からみれば、人間を利用することで、他の植物種よりも圧倒的な繁栄を遂げることに 成功しているといえる。しかも同じ土地に生える別の植物、通称雑草を人間がせっせ と抜いてくれて、生存競争を圧倒的有利にしている。さらに人間が穀物種の交配を繰 り返していることを利用して、他の植物種よりも強く繁殖できる種にみずからを進化 させているし、種の多様性が高まりより適応的となる。さらにいえば、植物もまたそ の遺伝子の乗物なのかもしれない。ところで、遺伝子にとっての繁栄とは何だろう か。分からないが、おそらくその多様性を増やして生き残ることだろうか。もちろん 遺伝子に意思はないはずだが、そういう意味でいえば、遺伝子を構成する物質、なん なら原子レベルにも意思はないはずだが、果たして原子に繁栄という概念はあるのだ ろうか。仮にあるとして、原子の側からモノを見たときに、原子にとっての生存競争 とは何だろうか。化学的に地球上の原子の総量自体はもしかしたら変わらないのかも しれないが、しかし地球の歴史上、酸素が出来たのはその真ん中くらいで、それまで の大気はメタンが中心だった。だとすれば、原子にとっての繁栄は、化合物としてよ り多様な環境に存在することといえるかもしれない。例えば、人間が農業を行うと き、種の選別と草取りのみならず、肥料を与える。特に近代的な化学的肥料は劇的に 収穫をあげた。しかし肥料の側から見ると、大気中にある窒素を固定化してアンモニ アを化合したり、あるいは石油から生産したりする。とすると、大気の中で窒素でし かなかったものが、多様な形をとって地表や地中で他の化学反応を引き起こし別の化 合物として、いわば多様な繁栄が可能となっている。石油として地下に固定されてい た状態から、人間を利用して、地中から解放されて多くの多様な生存を成し遂げてい るともいえる。また。農業に際して、人間が一定の害虫を駆除することで、それ以外 の昆虫が繁栄していることも明らかである。こうしてみれば、ライオンが生きるため に特定の草食動物を中心に狩ることも、ある種のアリがキノコを育てて食料としてい ることも、人間の農業も、特に違いはないような気がしてくる。
結局、危惧していたとおり、どんな新しい視点を得ることができたのかよく分から ないが、あくまで思考実験として、生物の遺伝子や化合物の多様性が人間を利用して 複雑性を高めている一方で、人間の地球に対する活動は、良くも悪くも地球にとって の活動ではなく、すべてが人間のためであるともいえ、それは植物がみずからのため に光合成によって不要物の酸素を巻き散らすのと、ライオンが自らのために他の動物 を殺すのと、トムソンガゼルが自らのために植物を殺すのと、地球が地球の地質学的 活動のために地表の生き物を絶滅させるのも、すべて自らのためといえるのかもしれ ない。ウニは海藻を食べて生きているが、ウニが自らのために増えすぎると、海藻が 足りなくなって磯焼けという海藻がほとんど生えなくなる状態となり、そのうちウニ の数が大きく減る。人間が繁栄のために冷房をつけて快適に繁殖した結果、温暖化で その数が減ってしまうかどうかは、やはり人間だけが選択することができるのだろう と感じた。変なレポートになって、申し訳ありません。。