憲法は丸暗記ですか
高校公民科で日本国憲法をどう扱うか。公民の授業が嫌いになる理由の1つに日本国憲法の学習がある。重要な部分の暗記を求める教員がいる。理解よりもまず、暗記、頭に入れて一部分を隠されたら、そこに何が書かれているかわかるようにしなければならない。暗記テストや書き写し課題がある。一番多いのは、空欄補充問題である。中には、条文番号が伏せられていて、第何条かを答えさせる場合もある。
フレーズの暗唱は必要か
書き取りテストは必要か
前文の暗記を求める教員も多い。自分が中学高校時代に受けた授業を再生産する教員もいる。自分が生徒のときにやったからという理由で行う。当然、定番と思い教員は強く必要だと考えている。
公務員試験に出題されるから
控えめな理由だが、やめられないと言う。果たして憲法条文暗記は、公民教育に必要な学習活動なのだろうか。
司法試験は暗記力テストではない
問われるのはリーガルマインドと言われる法的な判断力であって、暗記力ではない。司法試験では六法を参照できる。法律の条文を覚えているかは、テストされない。
国民の3大義務を覚えてほしいというけれど
憲法に国民の義務が載っているのは珍しい。憲法は権力規範であって、国民を権力者から守るのが役割である。
国民が主権者だから、国民が権力を持っている。確かに国会議員を選出したり、最高裁判所裁判官を審査するのは国民であり、全く国民が権力を持っていないわけではない。しかし、権力者は国民の人権を簡単に侵害できる。権力を持った者がミスをしても、人権は脅かされる。権力者よりも国民は立場が弱い。歴史的に国民は権力者の犠牲になってきた。だから憲法が制定された。
国民が憲法を守る
憲法には国民の義務よりも多くの権利が書かれている。義務を果たした者だけに権利が与えられるのではない。人権を手に入れるのに、条件はない。ただ人であればいい。
ルールを守る。
ルールに従う。
憲法を守る。
憲法に従う。
憲法に従わなければならないのは、誰か。
日本国憲法の前文には、日本国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動するとある。もし、正当に選挙されていない代表者を通じて行動するようなことがあれば、憲法に従っていないことになる。でも、憲法を守るということをこういう意味で説明するのは珍しいと思う。
憲法の条文はわかりにくい。
宛先がわからない。
第二十九条 財産権は、これを侵してはならない。
一体誰に言っているの?
「すべて国民は」とか、「何人も」とか書いていません。財産権を侵してはならないって、つまり人のものを盗るなということだろうか。人を殺してはならないも書いてあるのだろうか。
憲法がしてはならないと言っている相手は、国民ではない。国民に盗むなと言っているのではない。憲法には宛先が書かれている条文がある。
第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
憲法を尊重し擁護する義務があるのは、天皇、大臣、議員、裁判官、公務員である。
憲法を守らなければならない。
憲法を尊重擁護しなければならない。
「すべて国民は」とは書かれていない。公務員試験に出題される理由だ。天皇や大臣たちに憲法に従った判断をさせるために、国民は憲法を知っておく必要がある。国民が憲法違反をすることはない。憲法違反をする可能性があるのは、権力者たちだ。国民は憲法に沿った判断を権力者に求めることができる。
国民が権力者たちに、憲法を守らせる。
憲法は権力者たちに、憲法に従うよう命じている。
学ぶべきこと
憲法制定の意図
権力者に求めていること
国民の権利
制定過程
国民の義務や前文の表現を暗記することの必要性は高くない。制定過程や制定の意図を学習する際に参照するべきだが、丸暗記や暗唱は公民教育の目標につながっていない。内容理解が大事だ。
暗記テストで評価される能力は、読みにくい文章をいかに要領よく頭に入れたかであって、この能力を評価するなら教材は、憲法でなくてもできる。
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