シャルドネな女
ワインのぶどう品種が女だとしたら、シャルドネ種を真っ先に話すべきだと思う。
シャルドネ種は、白ワインに用いられ、栽培しやすいことからも世界中で植えられている。
シャルドネの最大の武器は、「セルフ・プロデュース力」だ。品種としての尖った個性は実はそれほどないのだけど、醸造や熟成方法によって、変幻自在に自分を変えることができる、したたかで女性らしい品種。芳醇なワインを作る。
そういう意味で、誤解を恐れずにいうならば、「ドM」な品種だと言いたい。醸造家の作り方によって、見事に変身する。トロピカルフルーツな果実感を出したり、蜂蜜やトースト、煎ったナッツのような香味を出したり、これほど自分(造り手)好みに染まってくれる女、いや品種はない。
だけど、その「ドM」さも、「あなた色に染まりたい」と言いながら、実は最終的に相手を食って、自分のものにしてしまうのだから、魔性の品種と言える。
とりわけ特徴的なのは、樽との相性だ。シャルドネほど、樽を愛する品種はないだろう。フレンチオーク樽か、アメリカンオーク樽か、新樽か古樽か、樽発酵から熟成までの期間。醸造家によって選ばれた、「俺好み」の醸造方法を見事に吸収し、うっとりとした樽香を纏って自分の個性へと昇華していく。それが、シャルドネ。
シャルドネの好奇心は底なしだ。
フランス・シャブリ地方のように、きりりとした酸味を出したシャルドネワインになることにも興奮し、他の品種とのブレンドにも積極的。そして大好きな樽からくる蜂蜜の香水を周囲に撒き散らす。マリリン・モンローみたいな品種。大ぶりのリーデルで、香りを楽しみながら、ふくよかな肉体にうっとりとして、溺れたい。
最大のコラボレーションは、シャンパーニュだよね。
そう、みんな大好き、ラグジュアリーなシャンパン。
シャルドネは、スパークリングワインでも喜んで作られるけど、瓶熟成など厳格な規律があるシャンパーニュ地方でしか作られない、シャンパーニュ。妖艶なピノ・ノワールを口説き落としたのか、ピノ・ムニエも連れて、見事なシャンパーニュを作ったのも、シャルドネの迫力無くしてはできなかった偉業だと思う。ちなみに、シャルドネ種だけで作るシャンパーニュは、「ブラン・ド・ブラン」と呼ばれる。どれだけ、セルフ・プロデュース力が優れているのだろう。
あまりにポピュラーで、ちょっとしたスノッブには、敬遠されるのだけど、シャルドネ・クラスになると、そんなのは気にしない。むしろ、好奇な目で見られることに興奮したりするのだから、立派なものだ。
シャルドネって本当にリースリングと対照的。そうだな、リースリングが、図書館で哲学の本を読んでいる時、シャルドネはクラスで真っ先に、スカートを短くして、ピアスを開けて、一目置かれる存在になってる。そんな感じ。
「リースリングってすっごく綺麗だしさ、ピアスとか絶対似合うと思うよ!メガネもコンタクトにしなよ!」
と無邪気に言えば、リースリングは黒縁のメガネを触りながら、
「シャルドネだから似合うんだと思うよ。私はなんか違う」と会話してる感じ。お互い、リスペクトはしてるね。きっとそうに違いない。
今日も世界中の醸造家が、俺好みのシャルドネを作ろうと必死になってるだろう。その横で、シャルドネはサテンの下着姿で無邪気に笑うのだ。