書評:『悲劇的なデザイン』
積読状態になっていた本をやっと一冊読みきりました。普段は、気が向いた時にしか本を読まないので結構時間がかかってしまいました。
さて、今回読んだ本のタイトルは『悲劇的なデザイン』。デザイン上での「倫理や道徳とは?」「間違った使われ方の影響とは?」について書かれた本です。
デザインは人を殺す
人のために作られたデザインでないものは、使い手をイライラさせるだけでなく、時には命を奪ってしまうことがあります。その一例として、実際に起きた医療ミスのお話が本書で紹介されています。
とある放射線を使った医療機器の操作が複雑すぎて、エラーが頻発していました。エラー画面にはただ一言「エラーです」としか表示されておらず、どこに問題があるのか判断できない状況でした。医者は命を預かる職業とはいえ、同じような作業を繰り返す中で、こんな風に毎度のごとくエラー画面に遭遇していては、「このエラー画面は無視してもよい」と判断してしまうこともあるでしょう。そうしてエラー画面を無視し続けた結果、規定以上の放射線を患者に浴びせ、死に至らしめてしまった。
「これは確認をしなかった医者の責任なんじゃないか?」と思われがちですが、医者がミスをしてしまうような状況を作り出したのはデザイナーです。いくつもの要因が絡まった事故とはいえ、その要因を作り出したのはデザインなのです。「入力画面を並べただけの操作画面」、「なんのエラーなのか原因を表示しない」という”ちょっとしたこと”から人の命を奪うほどの事件に発展してしまったのです。
このような問題の原因を「ユーザーへの共感が不足している」と著者は述べています。ユーザーを第一に置くのではなく、クライアントやスポンサー、上司の意見などを優先して、それらがユーザーよりも高くなったとき悲劇が生まれてしまうのです。
デザインとものづくりを一緒にして考えてはいけない。デザインを話題にし、本当の意味でのデザインをしたいなら、手がけているデザインの影響を考えなくてはならない。(p.203)
数値ばかりを追いかけて、「もっといい解決方法はないのか」「そのサービスが提供すべき価値はなんなのか」と自問する余裕をもてないままデザインを続けていると、その影響まで考えが及ばず、ひどいデザインが生まれてしまうのです。
デザインは人を悲しませる
多くのデザイナーは、自分が作ったもので世界がより良くなるようにという願いを込めて仕事をしていると思います。ただ残念なことに「善意」によって誰かを傷つけてしまうこともあります。
Facebookの「今年を振り返ろう!」という今年一年の出来事を掘り起こすイベントは、多くの人にとっては懐かしさを思い出させるいい企画でした。ですが、家族を失った人にとっては、その悲しみも目の前にもう一度突きつけられるようなものです。亡くなった大切な人の写真がログインするたびに表示されるのは、「どうしてこんな酷いことをするの?」と思わずにはいられないと思います。
デザイナーは時として、頭の中に自分にとって都合のよいユーザー像を作り上げてしまいます。「ユーザーが常に理知的で前向きな人物であるはずだ」と思い込んでしまいがちです。ですが、自分の人生を鑑みれば、いくつもの浮き沈みがあることを簡単にわかると思います。
「最悪の事態とは何か」を自分の胸に尋ね、答えが誰かが傷つくことや、殺されることの場合は、たとえ発生の確立がほぼゼロでも、必ずその対策を最優先にしなくてはならない。(p.130)
著者はデザイナーには「共感」する能力が大切だと述べています。それはユーザーへの共感だけでなく、クライアントやチームメイトへの共感も必要です。製作物を作り上げる上で、ユーザーを重視したデザインの重要性を伝えていくのもデザイナーの大切な仕事の1つです。自分が作った製作物に責任をもつというのは、そういうチームを作り上げていくことも含まれています。
私たちにできること
一番意識すること、つまり本気でこう考えることだ。「自分は本気でこのプロダクトを世に送り出すつもりだ。本気で”承認”する」とね。これからはもう、受け身の姿勢でただ言われた役割をこなすだけでは足りない。消費者はデザインやデザインの影響を今まで以上に重視するようになっている。だから私たちは「言われたことは全て受け入れ、手元の素材でなんとかする」という考え方から脱却しなくてはならない(p.204)
今回、本書を読んでいて上記のテキストにハッとさせられました。「ユーザーを重視したデザインをやっていくぞ!」と言うのは簡単ですが、やり遂げることはとても大変です。人に対して興味を持って、テクノロジーについて研究し、それらの影響について考え続けることが大切なのだなぁと改めて気づくことができました。
この本は、デザイナーだけに向けられたものではありません。全てのサービス開発に携わる人にもぜひオススメしたい良い本です。