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『異邦人』
『異邦人』
カミュ
窪田 啓作 訳
新潮文庫
母が死んだ。息子のムルソーは葬式の翌日には海でガールフレンドと遊び、喜劇映画も見た。その後、友人の女性関係のもめごとに介入し、人を殺害してしまう。その判決は……という内容。
そうか……。これが不条理と言われる時代があったのか……という感じ……。
確かに主人公は変だ。欲望のままに行動するくせに感情は乏しく、共感性はほぼ持ち合わせてないように感じられる。罪悪感とか後悔みたいなものも最後まで見られないし……
でも、これまんま現代の日本の状況じゃない……????
殺人、だからもちろんこの作品の内容とは全然重さが違うけど、今の日本って私的なことでなにかやらかしてしまったら、社会的に抹殺されてしまう。
だからこの『異邦人』と同じ過程、結末をまねきかねない。
もうそれが、「日常」で「当たり前」って感じがして、特別「不条理」って印象は受けなかったな……
ムルソーについても、ムルソーに近い人たちは裁判で誰もムルソーのことを悪く言ってないんよね。一回会っただけの人とかほぼ無関係のような人たちだけがムルソーを批判している。
殺人とその後の罪悪感のなさについては圧倒的に絶対的にムルソーが悪いけどさ、あとはさ、なんかさ、現代って感じで苦しかったよ。
だから、えーさすがにありえんやろ?!みたいな結末には感じなかった。まぁそうなっちゃうかもね……みたいな。受け取り側にそう思わせてしまう時代の変化が怖いよ……
あと、作品の内容とは関係ないんやけど、
きょう、ママンが死んだ。(P6)
の出だしがあまりに有名で、そういえば訳者ってどんな人なんだろうって調べたら経歴に「元欧州東京銀行頭取」って書いてあってびっくりした。どれだけ多才な方なんだ。一体どういった経緯で翻訳することになったんだろう。そちらの方にも興味がわいた。