実店舗ビジネスは時代遅れじゃない!雑貨店が考えたECサイトとのつなぎ方
たかしのオフィスを訪れたのは、ファンシー雑貨店「カラフルスタイル」の経営者、佐藤だった。彼女の店は、かわいい文具やアクセサリー、オリジナルのステーショナリーなどを扱い、若い女性を中心に人気を集めていた。しかし最近、スタッフの不満が高まっているという。
「たかしさん、うちのスタッフが困惑しているんです。実店舗にお客様が来て商品を見てくれるのは嬉しいんですけど、その後、系列のECサイトで購入されるケースが増えていて…。お客様の対応には手間をかけているのに、売上には直結しないからやる気が出ないと言われてしまって…」
佐藤は困った顔で話を続けた。「特に最近、新しいコラボ商品や地域限定のアイテムを増やしていて、スタッフも商品の多様性に対応しきれていないみたいなんです。どうやったら実店舗の価値をスタッフに納得してもらえるでしょうか?」
たかしは佐藤の言葉をじっくりと聞き、少し考え込んだ。そしてノートに短い言葉を書き込んだ。
「橋を架ける」
「橋、ですか?」佐藤が首をかしげる。
「そう。実店舗とECサイト、そして多様な商品やブランドの間に橋を架けるんです。それぞれが独立した存在ではなく、繋がっていることをスタッフにもお客様にも示す仕組みを作るんです」
「どうやって、それを見せるんでしょう?」
たかしはペンを回しながら説明を始めた。
「役割を見える化する」
「実店舗は、商品を『体験』する場としての役割があります。たとえば、新作のコラボアイテムや地域限定グッズを実際に手に取ったり、スタッフとの会話を通じて商品の魅力を感じたりする体験。それ自体が、お客様にとって大きな価値なんです」
「でも、実店舗で体験したあとECサイトで買われると、スタッフは報われない気がしてしまうんです」と佐藤。
「そこで、実店舗がECサイトの売上にどう貢献しているかを見える化する仕組みが役立ちます。たとえば、ECサイトの商品ページに『○○店で展示中』『実店舗で見られます』と表示する仕組みを導入する。さらに、購入時に『どこでこの商品を知りましたか?』というアンケートを取ったり『店舗で見た』というチェックボックスを設けたりすると、実店舗の貢献度が数字としてわかるようになります」
佐藤はメモを取りながら頷いた。「なるほど、それならスタッフも納得しやすいですね。他には何かありますか?」
「実店舗限定の価値」
「ファンシー雑貨は特に、『ここでしか買えない』『ここでしか体験できない』という特別感が重要です。だから、実店舗限定の特典やサービスを作るのも効果的ですね」
「具体的には?」
「たとえば、実店舗で購入するとノベルティがもらえるとか、好きな商品をセットにできるギフトラッピングサービスを追加する。あるいは、店舗でしか購入できない限定デザインを用意してみるのもいいですね」
「たしかに、店舗ならではの体験を作るのは面白そうです!」
「物語を共有する」
たかしはさらに続けた。「スタッフが商品の多様性に戸惑っているなら、それぞれの商品が持つ背景やコンセプトを共有する機会を作るのも大切です。たとえば、勉強会を開いて『このキャラクターはこういうストーリーがある』『このコラボはこんな背景で生まれた』と情報を共有する。商品への理解が深まれば、接客にも自信が生まれます」
佐藤は目を輝かせた。「それなら、スタッフ同士のコミュニケーションも深まりそうですね!」
「橋を架けるためのステップ」
最後にたかしはこう付け加えた。
「実店舗は、単なる販売の場ではなく、"体験と物語の発信地"なんです。それをスタッフが理解し、誇りを持てる仕組みを作れば、不満は解消されるはずです。そして、実店舗とECサイトが橋で繋がっていることをお客様にも伝えれば、どちらも大事にする仕組みが整います」
佐藤は深くうなずき、席を立った。「たかしさん、本当にありがとうございます!早速スタッフと話してみます」
後日、「カラフルスタイル」の実店舗では、商品の背景を紹介するカードやスタッフによるおすすめPOPが導入された。また、スタッフ向けの勉強会が定期的に行われるようになり、ECサイトにも「○○店で展示中」の表示が加わった。実店舗とECサイトは徐々に相互に支え合う形を整え、スタッフの笑顔が戻ったという。
たかしはその様子を聞きながら、静かに呟いた。
「橋を架ければ、人も物も心も行き来するものだ」