ユーザー激減!アプリの再起につながったヒントとは!?
たかしは大学時代、ギターサークルで後輩たちに慕われていた。その中でも村田健太はひときわ熱心な青年で、曲作りや演奏だけでなく「どうすれば人の心に響くか」をよく語り合った仲だった。
卒業後、健太はアプリ開発会社を立ち上げ、たかしはコピーライターとしての道を歩んだ。数年ぶりに会った二人だったが、健太の表情には迷いが浮かんでいた。
「先輩、僕が作った習慣管理アプリ、どうしてもユーザーが使い続けてくれなくて……機能もデザインも頑張ったのに、全然響いてないんです。」
健太はコーヒーカップを握りしめながら言った。その言葉に、たかしはじっと耳を傾けた後、柔らかい声で答えた。
「健太、お前のことだから、一生懸命やったのは分かるよ。でも、ちょっと詰め込みすぎてるんじゃないか?」
「詰め込みすぎ、ですか?」
たかしはバッグから一冊の本を取り出した。それは『言志四録』だった。
「この本、知ってるか?」
健太は首を横に振った。「いいえ、初めて見ました。」
たかしは本をテーブルに置き、表紙をそっと指でなぞりながら続けた。
「これは江戸時代の学者、佐藤一斎が書いた本だ。短い言葉で人生の本質をついてくる。俺がコピーライターとして迷ったとき、いつも助けられるんだよ。」
健太は興味津々で本を眺めた。
「どういうところが参考になるんですか?」
「この本には、物事の核心を見極める大切さが詰まってる。それはアプリ作りにも通じると思うんだ。お前のアプリが本当に伝えたいことは何なのか、それをこの本を読んでじっくり考えてみてくれ。」
健太は少し戸惑いながらも、本を手に取りページをめくった。短い文章が整然と並ぶその中に、何か大切なヒントが隠されている気がした。
「先輩、僕、この本読んでみます。」
たかしはにっこりと笑った。
「読んだらまた感想を聞かせてくれよ。きっと、お前がアプリに本当に必要なものが見つかるはずだ。」
数ヶ月後
健太が改良したアプリは、余計な機能を削ぎ落とし、ユーザーにとって本当に必要な部分だけを残した。結果、それがユーザーに愛されるプロダクトとなり、大きな成功を収めた。
健太はたかしに再び会い、お礼を伝えた。
「先輩、『言志四録』、すごく良かったです。本当に大事なことが何か考え直せました。」
たかしは微笑んでうなずいた。
「良かった。物事の本質を見つけるのは簡単じゃないけど、そのための言葉に出会えたなら、それだけで価値があるよ。」
二人はかつてのギターサークルの思い出話に花を咲かせた。その頃から変わらない、音楽と人への思いが、二人をまた繋いでいた。